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虹を架ける者--------第21話


 魔女の館の大広間には、現在六人の人影が確認できる。その中で、大人は二人。あとは少女が二人と、その二人よりもっと歳若い少年が二人。
「デイザーの・・・王子?」
 先刻の、少年たちの告白を聞いて、最年長である壮年の男性――ナムレスが眉根を寄せる。それは彼が何か考え事をするときの癖だった。
「デイザー・・・ねぇ・・・あの北隣の・・・」
 この発言をしたのは、次の年長者たる女性――シンディだった。こちらは、思案しているのか、何も考えていないのか、図りかねる表情だ。
「北隣ってことは・・・ここはアイセントかな?」
「アイセントって、デイザーの南にある国だよね?」
 シンディの呟きに反応したのは、双子と思しき二人の少年――クレスとケンスだ。
「察しがいいね、ここは確かにアイセントさ。もっとも、アイセントでも最北の、お宅との国境になる、メガラロックだけどね」
 自分の漏らした言葉から、しっかりと現在地を把握できるその利発ぶりに、素直に感嘆するシンディ。
「ぼくたち・・・もしかして不法侵入してるんじゃない?」
「そうだよね・・・関を越えた覚えもないけど、手形も何も持ってないもんね・・・」
「それじゃどうなるんだろう・・・捕まっちゃうのかな?」
「領域侵犯ってことになれば、捕まっちゃうよね?」
「「どうしよぉぉぉ?」」
 双子の、あまりのテンポの良さに、誰も口を挟めない。二人の口が止まったところでようやくシンディが口を挟むことが出来た。
「さらわれてきたって事情があるから、捕えたりはしないよ」
 その発言で、さらに悟ったのか、
「「それではみなさんは、アイセントの方なんですか?」」
 やはり見事なハーモニーだった。
「あ、いえ、私たちは違います」
 それまで成り行きについていくだけでいっぱいいっぱいだったルーティが、ここにきてようやく口を開いた。アーリィは、そのルーティの後ろで静かに控えている。
「あれ?この国の人間じゃなかったのかい?」
 傍にお付きたるリューナがいれば、即座に突っ込みが入ったであろう――髪や瞳の色が明らかに他国の者であることを示しているではないか!と――。アイセントの国民は皆、緑か、それに順ずる色の髪をしている。
「え・・・と・・・その・・・」
 ルーティが口ごもっていると、
「立ち話はその辺にして、とりあえずここを出ませんかな?魔女が造った館なら、魔女の力が弱まったために、崩れてくるかもしれませんぞ」
 それまで、思考の世界に埋没していたナムレスが、現実世界に戻ってきた。そして、一同を促す。
「それもそうだね」
 即座に賛同したシンディは、他に人の気配はないか、手早く探り、誰もいないことを確認して、皆を先導して広間から出て行った。
 カツカツカツ、と、六人分の足音が大理石の廊下に反響する。六人はなぜか、黙ったまま廊下を進んでいった。
 逃げていた時は、とても長く感じたルーティだが、意外にもすぐにロビーに行き当たった。ロビーには、リューナが倒れている五人の男たちを油断なく見張り、なおかつ、何者が廊下を進んでくるのか、厳しく注意を払っていた。
 現れたのが、自身のよく知る騎兵隊の隊長であることに安堵する。しかし、その後ろをぞろぞろとついて歩く者達に、少なからず面食らっていた。
「隊長・・・?何なんですか?その行列は・・・」
「後で話す。それより、そいつらの応急手当は?」
 そいつらとは、床で伸びている義賊『封龍』の頭目とその党員だ。強烈な光が走った後、倒れはしたが、皆ちゃんと息はあったのだ。
「はい、終わってます。けっこうひどい怪我ですが、命に別状はないでしょう」
 誰がその傷を作ったのか――まったく意に介していないリューナだった。
「じゃ、全員連れて外に出よう。状況を整理したい」
「了解です」
 さすがに訓練されている兵士である。その後はシンディとリューナを中心にてきぱきと動き、数分後には全員、館の外に出た。あれほど吹き荒れていた風は、一時収まっているようだ。
 すると、地響きのような音が辺りを震わせたかと思うと、あっという間もなく、今しがた出てきたばかりの館が崩れ去った。
 飛んでくる砂塵と瓦礫は、傍に係留していた大蟷螂たちが劣化した羽を動かし、一行を守ってくれた。
「ほんとうに崩れたよ・・・・・・」
 気絶している者を除く者たちが唖然とする中、誰とも知れぬ呟きがこぼれた。

虹を架ける者--------第20話

 場所は、魔女の館の大広間。
 毛足の長い、深紅の絨毯に勢いよく倒れ込んだ二人の少年たちは、自分たちに注がれる四対の視線に気が付き、顔を上げた。
 二人は、とてもよく似た顔立ちをしている。いや、そっくりだと言っていいくらいだ。水色の瞳は強い意志を宿しており、艶やかな黒い前髪の分け目が違っていなければ、区別がつかないほどだ。
 少年たちは、自分たちを見つめる者たちに一瞥くれると、優雅な所作で静かに立ち上がった。そして、まるで合わせ鏡のように、左の少年は右腕を、右の少年は左腕を上げて、指を突きつけ、
「「お前たちは、ぼくたちを誘拐した一味だな!?」」
 よく似た声を揃えて、言い放った。
 しん――――と静まり返る広間。
 あまりの反応のなさに、少年たちは首を傾げた。
「アレ・・・?なんか違うみたいだよ、クレス」
「・・・そうみたいだね、ケンス」
 二人は互いに顔を見合わせた後、再び四人の反応を窺った。時が止まったように固まっていた四人が、ようやく動き出す。
「ぁ~・・・要するにあんたたちは、誘拐されてきたってことだね・・・」
 一番先に口を開いたのは、騎兵隊のいでたちをした緑髪の女性だ。
「そのようですな・・・・・・大方、私と同じように、例の魔女とやらに・・・」
 次に口を開いたのは、長身の薄紫髪の男性。そして次は、
「こんな幼い子たちまでさらってきて・・・いったい何をするつもりだったのでしょう・・・?」
 少年たちを不憫な瞳で見つめる、茶髪の少女だった。その後ろに控える赤髪の少女は、主人の言葉に相槌を打っただけだった。
 少年たちは、再び互いに顔を見合わせた。今、聞き捨てならないキーワードを聞いたのだ。
「・・・魔女?」
「・・・魔女って言ったね・・・」
「ぼくが庭を一人で散策してた時に、黒い髪のすごく奇麗な女性が現れたよ」
「え?ほんと?ぼくもすごく奇麗な女の人を見たよ。一人で図書室にいた時だ」
「「魔女ってもしかして・・・・・・アレ?」」
 少年たちは見事にハモらせて、年長者たちを顧みた。それに対して、最年長者である男性――――ナムレスが大きく頷く。
「ソレだ」
 その答えを受けて、二人の少年たちは、再度ささやきを交わす。
「ぼくたちをさらった目的って、やっぱりアレかな?」
「ソレしか考えられないよね」
「でもそうすると、この人たちはいったい何だろう?」
「魔女の下僕ではないようだし・・・もしかしたら、救助隊かも」
「えー?ぼくたちとあんまり歳が変わらない、しかも女の子がいるよ?」
「でもあっちの人は、兵士っぽいよ」
 少年たちのささやき合いは、果てしなく続く――――そんな予感がした緑髪の女性――――シンディが手を上げて止める。
「ちょっと待った、そこまで」
 一斉に振り向く少年たち。
「あたしたちはもちろん、魔女の下僕ではないけれど、救助隊でもない。単なる通りすがりだ」
 そこで静観していた――――というよりは、状況についていけていなかった茶髪の少女――――ルーティが「え?」と小さく声を上げる。
「と、通りすがり・・・は、少し違うのでは・・・?」
「細かいことは気にしない!とにかく!」
 ルーティの弱気な異議申し立ては、シンディに軽く一蹴された。
「とにかくだ、あんたたちはいったい、何者なんだい?」
 少年たちにとって、自分たちの正体は謎だろうが、こちらとしても、少年たちの正体は謎なのだ。いい加減、明らかにしてもらいたい、せっかちなシンディであった。
「ぼくたち?ぼくたちは・・・・・・」
 右側の少年はそこで言葉を区切り、相方に目配せすると、
「「砂の王国デイザーの第一王子クレスと、第二王子ケンスです」」
 そっくりな声を、ぴったり揃えて、素晴らしいハーモニーを披露する少年たちだった――――。


虹を架ける者--------第19話


 しんと静まり返った黒と赤の大広間で、四人の人影が互いを見つめあい、固まっている。やがて、静寂を破ったのは、薄紫色の髪をしたすらりと背の高い男だった。
「えー・・・失礼ながら、貴女はどちら様ですかな?」
 いきなり出てきて魔女呼ばわりされたことが、いささか面白くなかったようで、男性――――ナムレスは憮然とした表情だ。
「あ・・・えっと、ごめんなさい、あの・・・」
 それぞれの正体を知っている茶髪の少女――――ルーティが、慌てて間に立ってそれぞれを紹介し始めた。
「この者は魔女ではなく、ナムレスという同郷の者です」
 まずはシンディに対して、『謎の男』と思われているナムレスを紹介する。そして、
「ナムレス、こちらの方は、アイセント王国の王妹殿下でいらっしゃる、シンディ様です」
「は?」
 と声を上げたのはナムレスでもシンディでもなく、
「・・・・・・ルーティさま、今なんと・・・?」
「アーリィ・・・シンディさんは、この国の王女殿下でいらしたのよ」
 目が飛び出さん勢いで見開く従者に、ルーティは苦笑いした。自身もつい先刻、驚嘆の声をあげたばかりだ。気持ちはよくわかる。
「王女様ぁぁ!?この人・・・いえ!この方が・・・!」
 アーリィは失礼と思いつつも、シンディの頭の上から足先まで、驚愕の眼差しで眺め回した。
「あぁ、いいよいいよ、王女なんて柄じゃないんだからさ。ただの騎兵隊隊長だと思っててよ」
 照れているのか、本気で柄じゃないと思っているのか、シンディは頭を掻きながら手を振る。やはり、一国の王女とは思えない態度と言葉遣いだ。
「なるほど・・・・・・庶出の姫でしたな」
 シンディの生い立ちを知っているのか、一人納得するナムレス。知ってるなら、王女扱いするな、とシンディの瞳は口以上に物語っていた。
「で?魔女はどこいったんだい?ていうか、いったいどうなってるのか、説明できるかい?」
 シンディとリューナは、ロビーで夜盗集団『封龍』と対峙していた。それが突然、強い七色の光が城中を駆け巡り、その光が収まったかと思ったら、それまで執拗な攻撃を繰り返してきた夜盗どもが、操り人形の糸が切れたかのごとく、固い大理石の床に倒れていった。
「それでまぁ、後をリューナに任せてあんたを助けるために追ってきたんだよ」
 なのに魔女の姿はなく、代わりに見知った少女と見知らぬ男がいたわけだ。
 ルーティはアーリィを顧みた。応えようがなく、アーリィは軽く首を振る。
 次にルーティはナムレスの表情を窺った。言わんとしている事を読み取ったのか、ナムレスは小さく頷いた。それを受けてルーティは、真摯な眼差しでシンディに向き直った。「魔女は姿を消しました。なぜ消えたのか、どこへ行ったのか・・・それらを説明する前に、私たちの事情を話しておきたいと思います」
「事情?あんたたちの?」
 ふぅん、と、興味があるのかないのかよく解らない反応を返すシンディ。
「わかった、話を聞くよ。だけど、確認するけど、魔女は消えたんだね?」
「はい、消えました」
「じゃぁ、ここにはもう用はない。とりあえず出よう」
「そうですね」
 シンディの勧めに、ルーティはすぐに乗った。そして、アーリィとナムレスにも促す。
 四人が歩き出そうとしたその時、アーリィが小さく声を上げた。
「どうしたの?アーリィ?」
「あ、いえ・・・先ほどナムレス様が出てこられた部屋には、血の色をした泉があったのですが・・・・・・」
 そこでアーリィは確認するようにナムレスに振り返った。
「血の色の泉?・・・確かに私は泉から出てきたが、無色透明だったぞ」
 アーリィが見たときは、泉は確かに禍々しい深紅色をしていた。魔女も、『鮮血の泉』と呼んでいたはずだ。
「では、その泉も浄化してくれたのだわ・・・・・・」
 ルーティはまだ握り締めていた結晶を、さらに強く握った。
「たしかその泉から、複数の気配を感じたのですが・・・・・・」
 しかし、部屋から出てきたのはナムレス一人。アーリィの勘違いか――それとも――――?
「他に誰かいるかもしれないってことだね?だったら確認するまでだ」
 思い立ったら即行動!と言わんばかりに、シンディは件の部屋へと足を向けた。
 シンディが広間と泉の部屋との仕切りであるアーチをくぐった瞬間、
「「わぁぁぁぁぁ!!」」
 複数の、まだ幼い声がシンディに勢いよくぶつかった。さらに声だけではなく、シンディの胸より低い影がふたつ、彼女目掛けて突進してくる!
「な、な、なんだ!?」
 とっさに避けるシンディ。勢い余って広間に転がり出る二つの影。その影は、八つの視線が唖然と注がれる中、
「あいててて・・・」
「しっぱいしたぁ・・・」
 顔や頭をさすりながら、むっくりと起き上がったのは、まだ十歳くらいの少年たちだった――――。

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