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虹を架ける者--------第8話

 アイセント東方の街マンセンの裏通りを、二人の少女が足早に歩いていた。ルーティとアーリィの二人だ。
 アーリィが魔女から受けた傷はたいしたものではない。だが、彼女の顔色は悪化するばかり。よほどに強い毒のようだ。
 ルーティは心配のあまり、アーリィの負傷していない方の腕をとって、ぴったりと寄り添っている。それがどうにも、気になって仕方がないのか、アーリィは立ち止まってこう言った。
「ルーティさま・・・私は大丈夫ですから・・・少し離れてください」
「でも・・・・・・」
「・・・・・・実を言うと、歩きづらいのです」
 アーリィは青い顔色で笑おうとしたが、無理があったのか、少し引きつっている。
「ご、ごめんなさい!」
 ルーティは支えるように掴んでいたアーリィの右腕を、慌てて離した。そして、アーリィがほっと気を緩めた瞬間、魔女の毒を受けた左腕が素早く動き、ルーティの首を捉えた!
「ア・・・アーリィ・・・?」
 ぎりぎりと首を締め付けられ、ルーティは苦しげに声を絞り出す。突然の行動に、驚きを隠せない。
 驚愕しているのは、ルーティの首を掴んでいるアーリィ自身も同じだった。
「ルーティさま・・・!」
 アーリィは気付いていた。
 毒を受けたその時から、自身の心がどす黒い思念に侵され始めていたことを――――。
 それは破壊の衝動と、荒れ狂う憎悪の波だった。
 気付いていたからこそ、アーリィは最も傍にいる主人が危険だと思い、遠ざけようとしたのだ。しかし、気を緩めたばかりに、左腕が暴走を始めたのだ。
「く、くるしい・・・アーリィ・・・・・・」
 ルーティの顔色がどんどん紫になっていく。我に返ったアーリィは、なんとかルーティから引き剥がそうと、自らの左腕に組み付き、噛み付いた。
 しかし、なかなか離れない。
 業を煮やしたアーリィは、短剣を取り出すと手首に向かって振り下ろした!
「アーリィ!」
 ぎょっとするルーティの目の前で、アーリィの左手は手首を切り落とされる直前に、ルーティを手放した。
「ごほっ!ごほごほごほっ!」
 急に取り込まれた空気にむせて、ルーティが激しく咳き込む。
 アーリィは右手の短剣を手放すと、左腕を押さえながら数歩後ずさり、ルーティとの距離をあけた。
「ア、アーリィ・・・・・・」
 なんとか息を整えたルーティが振り返ると、毒と、自らの行動にいまや顔面蒼白となっているアーリィと目が合った。
 アーリィの目には、恐怖が浮かんでいた。それは、主人にではなく、自分自身に向けられた恐怖。
 このままでは、主人を傷つけてしまうという、恐怖だった。
「アーリィ・・・大丈夫?」
 ルーティは手を伸ばして、アーリィに近寄ろうとした。しかし――――、
「来ないでください!!」
 魂の底から搾り出すような叫びだった。
「来ないでください・・・今の私は、何をするかわかりません・・・」
 いつも強気なアーリィらしからぬ、泣きそうな声と表情だった。
「アーリィ・・・・・・」
 ルーティは、どうしたらいいのか、どうしてやればいいのかわからず、途方にくれる。
 魔女の毒とは、よもや精神を侵すものだったとは・・・・・・二人には対処のしようがない。
 いや、ひとつだけある。
 アーリィは決意を込めて、主人であるルーティを見つめた。
「ルーティさま・・・私は魔女の元へ行ってまいります。そして、なんとか解毒の方法を探ってきます」
「そ、そうね!それしかないわね・・・それじゃいったん宿に戻って準備を・・・・・・」
「いいえ、ルーティさま・・・・・・私一人でまいります」
「アーリィ!?」
 思いもかけないアーリィの提案に、ルーティは声を張り上げる。
「相手は魔女です・・・危険すぎます」
「だからこそ、私も一緒に!」
 一人よりは、できることは多いはず!しかし――――、
「ルーティさまには成さねばならないことがおありでしょう」
 真摯な眼差しに、ルーティは胸を衝かれる。
 成さねばならないこと――――そう、彼女には、何を置いてもやり遂げねばならないことがあった。
「でも・・・・・・アーリィ・・・・・・」
「ご心配には及びません、毒を解いて、必ずルーティさまを追いますから」
 そこでアーリィはにっこりと微笑んだ。その瞳は、覚悟と決意を固めた者の輝きを放っていた。
 ルーティは俯いた。
 生まれた時から、常に共にいた最高の忠臣にして、最高の友人。ここで離れ離れになってしまう――――。だが、
「・・・・・・わかったわ」
 自らの使命と、友人を天秤にかけての結果だった。彼女の使命は、かけがえのない友と別れることになっても、果たさねばならないことだった。
「それでは・・・・・・しばしお暇いたします」
 深々と頭を垂れたアーリィは、踵を返すと振り返ることなくその場を去っていった。それを見送るルーティの姿は、毅然たる、王者の風格を思わせるものだった。

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