FC2カウンター なすかの世界 2008年12月
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虹を架ける者--------第22話


 大陸のほぼ中央に、メガラロックという巨大な一枚岩がある。
 東西に横たわるその全長はおよそ3000km。標高は約5kmという、『神々の寝台』と呼ばれるに相応しい、超絶的な巨大さの岩だ。
 そのメガラロックの中央よりやや西寄り、南側のふもとで、崩落した小城が上げる土ぼこりの中に、十数人の人影が認められた。
 小城が崩れる直前に脱出してきた者たちだ。彼らは、もうもうと舞い上がる土煙の中、先刻まで存在していた城の跡を呆然と見上げていた。もっとも、約半数は怪我のためか気を失っており、地面に転がされている。天を仰いではいるが、当然見てはいない。
「何でいきなり崩れるんですか・・・?」
 おもむろに口を開いたのは、アイセントの大鎌騎兵隊員のリューナ。彼女は、崩落した城跡から、隊長であるシンディに視線を移した。その瞳を見たシンディは、
「あたしは何もやってないよ!」
 とても心外だ!といわんばかりに叫んだ。どうやら、リューナの瞳は、『隊長が何かやらかしたんでしょう?』と物語っていたようだ。
 今回はまったくの濡れ衣だったが、普段の行いからそういう疑いが掛けられたらしい。
「じゃぁ、何で崩れたんです?」
 なおも疑いの目を向けるリューナ。これに対してシンディは、自信なげに応えた。
「魔女がいなくなったから・・・?」
「え?いなくなったんですか?」
 初めて聞かされたことに、首を傾げるリューナ。
「あぁ、そうらしい。詳しい話は・・・・・・」
 リューナと向き合っていたシンディは、そこでルーティを顧みた。
「今からこのお嬢ちゃんに説明してもらう」
 リューナは改めて一同を見渡した。ルーティとアーリィは見知っているが、およそ30台の眼鏡を掛けた男性と、互いによく似た顔立ちをしている少年たちは初対面だ。
 これは、じっくりと、落ち着いた場で話を聞く必要がある――――。そう判断したリューナは、大蟷螂に積み込んでいる荷を解き始めた。
「テントをたてましょう、隊長」
「ふむ・・・そうだね」
 ここは岩ばかりの荒野。今は凪いでいるが、いつまた風が吹き始めるかわからない。だからといって、この大所帯で街まで移動するのもひと苦労だ。
 リューナの案に乗ったシンディは、自分の大蟷螂に積んであるテントを取り出し、手早くたて始めた。さすがにこの人数では、テントを二つたてても窮屈になるだろう。
「『封龍』どもはリューナのテントにまとめて突っ込んでおこう。あとはあたしの方のテントに入ってちょうだい」
 さすがに、アイセントの王女であり、騎兵隊の隊長の持ちテントは、一隊員のリューナのテントよりは広く、大きかった。しかし、7人も入ればやはり窮屈だ。
「さて・・・と・・・。まずは簡単に説明しておくよ」
 『封龍』以外の全員がテントに入り、腰を落ち着けたのを見計らって、シンディはまずリューナに、ごく簡単な説明をした。
 眼鏡の男性――ナムレスはルーティたちと同郷の者であり、少年たちは北の隣国、デイザーの双子の王子、クレスとケンス。彼らは魔女の手に落ち、城の中にあった『鮮血の泉』とやらに入れられいたらしいということ。
「で、魔女が消えた訳と、あんたたちが何者なのかを・・・ルーティ、話してくれるね?」
 シンディに、いつになく真摯な眼差しで見つめられたルーティは、傍に控えるアーリィとナムレスに目配せし、意を決したように話し始めた。
「私たちは、このアイセント国の西隣、イリス国の者です。私の名はルーシディティ。イリスの第一王女であり、巫女の位にある者です。アーリィは私の従者。ナムレスは、イリスにおいて、宰相の地位にある者です」
 一気にそこまで言うと、ルーティは居住まいを正し、
「正体を隠して貴国を旅していたこと、お詫び申し上げます」
 と、シンディやリューナに頭を下げた。
「イリスの巫女姫・・・・・・聞いたことがあるよ」
 ふむ、と頷くシンディ。
「イリスの宰相閣下は、切れ者で名が通ってますね」
 リューナは遠慮がちにナムレスを見る。ナムレスは軽く視線を合わせると、静かに会釈した。
「で?その巫女姫がなんだって正体隠してまでこの国に来たんだい?」
「それは・・・・・・」
 ルーティはそこで、ずっと握り締めていた結晶を取り出し、
「この我が国の秘宝、『虹の結晶』の力を取り戻すためです」
 そう言って、色がすっかり失われてしまった結晶を、テントの床に静かに置いた。

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虹を架ける者--------第21話


 魔女の館の大広間には、現在六人の人影が確認できる。その中で、大人は二人。あとは少女が二人と、その二人よりもっと歳若い少年が二人。
「デイザーの・・・王子?」
 先刻の、少年たちの告白を聞いて、最年長である壮年の男性――ナムレスが眉根を寄せる。それは彼が何か考え事をするときの癖だった。
「デイザー・・・ねぇ・・・あの北隣の・・・」
 この発言をしたのは、次の年長者たる女性――シンディだった。こちらは、思案しているのか、何も考えていないのか、図りかねる表情だ。
「北隣ってことは・・・ここはアイセントかな?」
「アイセントって、デイザーの南にある国だよね?」
 シンディの呟きに反応したのは、双子と思しき二人の少年――クレスとケンスだ。
「察しがいいね、ここは確かにアイセントさ。もっとも、アイセントでも最北の、お宅との国境になる、メガラロックだけどね」
 自分の漏らした言葉から、しっかりと現在地を把握できるその利発ぶりに、素直に感嘆するシンディ。
「ぼくたち・・・もしかして不法侵入してるんじゃない?」
「そうだよね・・・関を越えた覚えもないけど、手形も何も持ってないもんね・・・」
「それじゃどうなるんだろう・・・捕まっちゃうのかな?」
「領域侵犯ってことになれば、捕まっちゃうよね?」
「「どうしよぉぉぉ?」」
 双子の、あまりのテンポの良さに、誰も口を挟めない。二人の口が止まったところでようやくシンディが口を挟むことが出来た。
「さらわれてきたって事情があるから、捕えたりはしないよ」
 その発言で、さらに悟ったのか、
「「それではみなさんは、アイセントの方なんですか?」」
 やはり見事なハーモニーだった。
「あ、いえ、私たちは違います」
 それまで成り行きについていくだけでいっぱいいっぱいだったルーティが、ここにきてようやく口を開いた。アーリィは、そのルーティの後ろで静かに控えている。
「あれ?この国の人間じゃなかったのかい?」
 傍にお付きたるリューナがいれば、即座に突っ込みが入ったであろう――髪や瞳の色が明らかに他国の者であることを示しているではないか!と――。アイセントの国民は皆、緑か、それに順ずる色の髪をしている。
「え・・・と・・・その・・・」
 ルーティが口ごもっていると、
「立ち話はその辺にして、とりあえずここを出ませんかな?魔女が造った館なら、魔女の力が弱まったために、崩れてくるかもしれませんぞ」
 それまで、思考の世界に埋没していたナムレスが、現実世界に戻ってきた。そして、一同を促す。
「それもそうだね」
 即座に賛同したシンディは、他に人の気配はないか、手早く探り、誰もいないことを確認して、皆を先導して広間から出て行った。
 カツカツカツ、と、六人分の足音が大理石の廊下に反響する。六人はなぜか、黙ったまま廊下を進んでいった。
 逃げていた時は、とても長く感じたルーティだが、意外にもすぐにロビーに行き当たった。ロビーには、リューナが倒れている五人の男たちを油断なく見張り、なおかつ、何者が廊下を進んでくるのか、厳しく注意を払っていた。
 現れたのが、自身のよく知る騎兵隊の隊長であることに安堵する。しかし、その後ろをぞろぞろとついて歩く者達に、少なからず面食らっていた。
「隊長・・・?何なんですか?その行列は・・・」
「後で話す。それより、そいつらの応急手当は?」
 そいつらとは、床で伸びている義賊『封龍』の頭目とその党員だ。強烈な光が走った後、倒れはしたが、皆ちゃんと息はあったのだ。
「はい、終わってます。けっこうひどい怪我ですが、命に別状はないでしょう」
 誰がその傷を作ったのか――まったく意に介していないリューナだった。
「じゃ、全員連れて外に出よう。状況を整理したい」
「了解です」
 さすがに訓練されている兵士である。その後はシンディとリューナを中心にてきぱきと動き、数分後には全員、館の外に出た。あれほど吹き荒れていた風は、一時収まっているようだ。
 すると、地響きのような音が辺りを震わせたかと思うと、あっという間もなく、今しがた出てきたばかりの館が崩れ去った。
 飛んでくる砂塵と瓦礫は、傍に係留していた大蟷螂たちが劣化した羽を動かし、一行を守ってくれた。
「ほんとうに崩れたよ・・・・・・」
 気絶している者を除く者たちが唖然とする中、誰とも知れぬ呟きがこぼれた。

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