FC2カウンター なすかの世界 2008年11月
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虹を架ける者--------第20話

 場所は、魔女の館の大広間。
 毛足の長い、深紅の絨毯に勢いよく倒れ込んだ二人の少年たちは、自分たちに注がれる四対の視線に気が付き、顔を上げた。
 二人は、とてもよく似た顔立ちをしている。いや、そっくりだと言っていいくらいだ。水色の瞳は強い意志を宿しており、艶やかな黒い前髪の分け目が違っていなければ、区別がつかないほどだ。
 少年たちは、自分たちを見つめる者たちに一瞥くれると、優雅な所作で静かに立ち上がった。そして、まるで合わせ鏡のように、左の少年は右腕を、右の少年は左腕を上げて、指を突きつけ、
「「お前たちは、ぼくたちを誘拐した一味だな!?」」
 よく似た声を揃えて、言い放った。
 しん――――と静まり返る広間。
 あまりの反応のなさに、少年たちは首を傾げた。
「アレ・・・?なんか違うみたいだよ、クレス」
「・・・そうみたいだね、ケンス」
 二人は互いに顔を見合わせた後、再び四人の反応を窺った。時が止まったように固まっていた四人が、ようやく動き出す。
「ぁ~・・・要するにあんたたちは、誘拐されてきたってことだね・・・」
 一番先に口を開いたのは、騎兵隊のいでたちをした緑髪の女性だ。
「そのようですな・・・・・・大方、私と同じように、例の魔女とやらに・・・」
 次に口を開いたのは、長身の薄紫髪の男性。そして次は、
「こんな幼い子たちまでさらってきて・・・いったい何をするつもりだったのでしょう・・・?」
 少年たちを不憫な瞳で見つめる、茶髪の少女だった。その後ろに控える赤髪の少女は、主人の言葉に相槌を打っただけだった。
 少年たちは、再び互いに顔を見合わせた。今、聞き捨てならないキーワードを聞いたのだ。
「・・・魔女?」
「・・・魔女って言ったね・・・」
「ぼくが庭を一人で散策してた時に、黒い髪のすごく奇麗な女性が現れたよ」
「え?ほんと?ぼくもすごく奇麗な女の人を見たよ。一人で図書室にいた時だ」
「「魔女ってもしかして・・・・・・アレ?」」
 少年たちは見事にハモらせて、年長者たちを顧みた。それに対して、最年長者である男性――――ナムレスが大きく頷く。
「ソレだ」
 その答えを受けて、二人の少年たちは、再度ささやきを交わす。
「ぼくたちをさらった目的って、やっぱりアレかな?」
「ソレしか考えられないよね」
「でもそうすると、この人たちはいったい何だろう?」
「魔女の下僕ではないようだし・・・もしかしたら、救助隊かも」
「えー?ぼくたちとあんまり歳が変わらない、しかも女の子がいるよ?」
「でもあっちの人は、兵士っぽいよ」
 少年たちのささやき合いは、果てしなく続く――――そんな予感がした緑髪の女性――――シンディが手を上げて止める。
「ちょっと待った、そこまで」
 一斉に振り向く少年たち。
「あたしたちはもちろん、魔女の下僕ではないけれど、救助隊でもない。単なる通りすがりだ」
 そこで静観していた――――というよりは、状況についていけていなかった茶髪の少女――――ルーティが「え?」と小さく声を上げる。
「と、通りすがり・・・は、少し違うのでは・・・?」
「細かいことは気にしない!とにかく!」
 ルーティの弱気な異議申し立ては、シンディに軽く一蹴された。
「とにかくだ、あんたたちはいったい、何者なんだい?」
 少年たちにとって、自分たちの正体は謎だろうが、こちらとしても、少年たちの正体は謎なのだ。いい加減、明らかにしてもらいたい、せっかちなシンディであった。
「ぼくたち?ぼくたちは・・・・・・」
 右側の少年はそこで言葉を区切り、相方に目配せすると、
「「砂の王国デイザーの第一王子クレスと、第二王子ケンスです」」
 そっくりな声を、ぴったり揃えて、素晴らしいハーモニーを披露する少年たちだった――――。


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虹を架ける者--------第19話


 しんと静まり返った黒と赤の大広間で、四人の人影が互いを見つめあい、固まっている。やがて、静寂を破ったのは、薄紫色の髪をしたすらりと背の高い男だった。
「えー・・・失礼ながら、貴女はどちら様ですかな?」
 いきなり出てきて魔女呼ばわりされたことが、いささか面白くなかったようで、男性――――ナムレスは憮然とした表情だ。
「あ・・・えっと、ごめんなさい、あの・・・」
 それぞれの正体を知っている茶髪の少女――――ルーティが、慌てて間に立ってそれぞれを紹介し始めた。
「この者は魔女ではなく、ナムレスという同郷の者です」
 まずはシンディに対して、『謎の男』と思われているナムレスを紹介する。そして、
「ナムレス、こちらの方は、アイセント王国の王妹殿下でいらっしゃる、シンディ様です」
「は?」
 と声を上げたのはナムレスでもシンディでもなく、
「・・・・・・ルーティさま、今なんと・・・?」
「アーリィ・・・シンディさんは、この国の王女殿下でいらしたのよ」
 目が飛び出さん勢いで見開く従者に、ルーティは苦笑いした。自身もつい先刻、驚嘆の声をあげたばかりだ。気持ちはよくわかる。
「王女様ぁぁ!?この人・・・いえ!この方が・・・!」
 アーリィは失礼と思いつつも、シンディの頭の上から足先まで、驚愕の眼差しで眺め回した。
「あぁ、いいよいいよ、王女なんて柄じゃないんだからさ。ただの騎兵隊隊長だと思っててよ」
 照れているのか、本気で柄じゃないと思っているのか、シンディは頭を掻きながら手を振る。やはり、一国の王女とは思えない態度と言葉遣いだ。
「なるほど・・・・・・庶出の姫でしたな」
 シンディの生い立ちを知っているのか、一人納得するナムレス。知ってるなら、王女扱いするな、とシンディの瞳は口以上に物語っていた。
「で?魔女はどこいったんだい?ていうか、いったいどうなってるのか、説明できるかい?」
 シンディとリューナは、ロビーで夜盗集団『封龍』と対峙していた。それが突然、強い七色の光が城中を駆け巡り、その光が収まったかと思ったら、それまで執拗な攻撃を繰り返してきた夜盗どもが、操り人形の糸が切れたかのごとく、固い大理石の床に倒れていった。
「それでまぁ、後をリューナに任せてあんたを助けるために追ってきたんだよ」
 なのに魔女の姿はなく、代わりに見知った少女と見知らぬ男がいたわけだ。
 ルーティはアーリィを顧みた。応えようがなく、アーリィは軽く首を振る。
 次にルーティはナムレスの表情を窺った。言わんとしている事を読み取ったのか、ナムレスは小さく頷いた。それを受けてルーティは、真摯な眼差しでシンディに向き直った。「魔女は姿を消しました。なぜ消えたのか、どこへ行ったのか・・・それらを説明する前に、私たちの事情を話しておきたいと思います」
「事情?あんたたちの?」
 ふぅん、と、興味があるのかないのかよく解らない反応を返すシンディ。
「わかった、話を聞くよ。だけど、確認するけど、魔女は消えたんだね?」
「はい、消えました」
「じゃぁ、ここにはもう用はない。とりあえず出よう」
「そうですね」
 シンディの勧めに、ルーティはすぐに乗った。そして、アーリィとナムレスにも促す。
 四人が歩き出そうとしたその時、アーリィが小さく声を上げた。
「どうしたの?アーリィ?」
「あ、いえ・・・先ほどナムレス様が出てこられた部屋には、血の色をした泉があったのですが・・・・・・」
 そこでアーリィは確認するようにナムレスに振り返った。
「血の色の泉?・・・確かに私は泉から出てきたが、無色透明だったぞ」
 アーリィが見たときは、泉は確かに禍々しい深紅色をしていた。魔女も、『鮮血の泉』と呼んでいたはずだ。
「では、その泉も浄化してくれたのだわ・・・・・・」
 ルーティはまだ握り締めていた結晶を、さらに強く握った。
「たしかその泉から、複数の気配を感じたのですが・・・・・・」
 しかし、部屋から出てきたのはナムレス一人。アーリィの勘違いか――それとも――――?
「他に誰かいるかもしれないってことだね?だったら確認するまでだ」
 思い立ったら即行動!と言わんばかりに、シンディは件の部屋へと足を向けた。
 シンディが広間と泉の部屋との仕切りであるアーチをくぐった瞬間、
「「わぁぁぁぁぁ!!」」
 複数の、まだ幼い声がシンディに勢いよくぶつかった。さらに声だけではなく、シンディの胸より低い影がふたつ、彼女目掛けて突進してくる!
「な、な、なんだ!?」
 とっさに避けるシンディ。勢い余って広間に転がり出る二つの影。その影は、八つの視線が唖然と注がれる中、
「あいててて・・・」
「しっぱいしたぁ・・・」
 顔や頭をさすりながら、むっくりと起き上がったのは、まだ十歳くらいの少年たちだった――――。

虹を架ける者--------第18話


 黒い壁に囲まれた広間を、少女の静かな嘆きが震わせる――――。
 紅い絨毯に膝をつくその少女の背後には、同じ年頃の赤髪の少女が控えている。彼女――――アーリィは、主人であるルーティが自らの意思で立ち上がるまで、黙って待ち続けていた。
 この館の主である魔女が姿を消して、どれほどの時が経ったであろうか?彼女たちの背後から、カツン、と小さな音が響いた。
 はっと振り向いたアーリィの瞳は、広間の真ん中に位置するアーチから、よろめくような足取りで出てくる者の姿を捉えた。
 そのアーチの奥には、魔女がアーリィに入るように言った、禍々しい泉があった部屋だ。確かに、幾人かの気配は感じ取っていたが――――。
 その者は長身で細身――――どうやら魔女ではない、恐らくは男性だ。距離があるため細部まではわからないが、身なりはそこそこ整っている。顔は、左手で覆い隠されていてよく見えない。
「何者!?」
 アーリィは素早くルーティを背後に庇うと、厳しく誰何した。
「・・・ん?」
 男はよろめく足を止めると、声のした方へ向き直った。他に人がいるとは思っていなかった――――そんな反応だった。
 魔女の手下か――――?アーリィが警戒心を強める中、自分たちの姿を認めた男が、遠目にも驚いているのがわかった。
「こ・・・これは・・・・・・!」
 男はアーリィたちとの距離を、ふらつく足取りで半分ほど詰めると、片膝をついて礼の姿勢をとった。
「これは・・・我らが巫女姫様よ・・・・・・」
 男はそこで始めて、覆い隠していた左手を顔から外した。あらわになったその容姿は、彼女たちの見知ったものだった。
「あなたは・・・!」
「まぁ・・・・・・ナムレス?宰相のナムレスではありませんか」
 それまで、結晶を握り締めて嘆いていたルーティだが、『巫女姫』と呼ばれて意識を現実に引き戻した。そして、自分をそう呼んだ者の姿を認めて、驚きの声を上げる。
「なぜあなたがここに?私たちが留守の間、すべてを任せてきたのに・・・・・・」
 魔女の瘴気によって荒らされた国を救うため、その術を求めて旅立ったルーティたちから、国の内情を他国に知られないためにも、すべてを宰相であるその男――――ナムレスに託してきたというのに、なぜここにいるのか?
 ルーティの声にはほんの少し、非難の響きが混じっていた。
「は!申し訳ございません!」
 ナムレスは、深く、深く、頭を垂れた。
「突然、私の部屋に黒衣の女が現れまして・・・・・・それ以降は、気がついたらここに・・・」
 そこでふと気付いたのか、ナムレスは辺りを見渡し、
「そういえば、ここはどこですか?」
 と、呑気な問いを口にした。これには、ルーティもアーリィも苦笑いするしかなかった。
「事情はよくわかりました。ナムレス、その黒衣の女こそ、我が国が荒れた原因であり、ここがその拠点だったのです」
「は?」
 『姫』の突然の告白に、理解が追いつかない、といった表情をしたナムレスだったが、さすがは宰相の地位にある者なだけあって、それはほんの一瞬だった。
「そうでしたか・・・あの女が・・・・・・」
 ナムレスは眉間に皺を寄せて思案した。丸い眼鏡の奥でひっそりと輝く瞳は、もはや何も映してはいない。彼が思考におぼれている時の癖だった。
「私をさらってここに拉致していたとなると、その女の目的は、我が国のさらなる混乱ですかな?」
 きらり、とナムレスの眼鏡が光る。
「そうですね、きっとそうでしょう・・・・・・でも」
 ルーティは一呼吸置くと、握り締めていた結晶を胸の前に抱え上げた。
「彼女・・・・・・魔女の最終目的は、この結晶にあったようです」
「結晶!?虹の結晶ですか!?」
 『虹の結晶』――――彼女たちの国を長く守護していた、七色に光る石。今はその光は、失われている。
「結晶を手にして・・・・・・いったい何を?」
 魔女は何のために、結晶を求めているのか?それは――――、
「わかりません・・・・・・」
 そう――――わからない。この『虹の結晶』は邪気や瘴気を払うもの。その瘴気の塊ともいえる魔女が手にしていったい何になるのか?
 三人が新たな謎に思考を巡らせようとしたその時、ルーティが魔女に追われて走った廊下に続くアーチから、何者かの靴音が高らかに響いてきた。それは、かなりの速さで近づいてくる。
「ルーティさま、こちらへ!」
 アーリィが再び主人を背後に庇おうと動いた時と、その靴音の主が現れるのとが同時だった。
「お嬢ちゃん!無事かい!?」
 抜き身の剣を手に持ったまま現れたのは、大鎌騎兵隊隊長のシンディであった。
「おお!無事だった!・・・・・・あれ?もう一人のお嬢ちゃんもいるじゃない?」
 ルーティの無事を確認してほっとしたのも束の間、アーリィや見知らぬ男の姿も目にして、シンディは足を止めた。
「・・・なんだい、その男?まさか、あの魔女とやら、実は男だったのかい!?」
 いきなり現れて、そして、とんでもない誤解を口にするシンディであった――――。


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