FC2カウンター なすかの世界 2007年11月
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虹を架ける者--------第13話

 巨大な岩山をくりぬいて造られた小さな城の中は薄暗く、どこか冷たい雰囲気を醸し出している。
 二階まで吹き抜けになっているロビーには、三人の人影があり、みな頭上を見上げていた。彼女たちの視線の先には、二階廊下の手すりに腰掛ける妖艶な美女。
「なぜあなたがここに・・・・・・」
 ルーティは声を震わせた。恐怖ゆえではなく、怒りゆえに――――。
 対する魔女は、少女の言葉に首を傾げる。
「おや?従者を追ってきたんじゃないのかい?」
 従者――――それの意味するとろこは、
「アーリィ・・・?アーリィはここにいるのですか!?」
 ルーティにとっては、大事な友でもある従者アーリィ。彼女は、自らが受けた毒を解くために、単身魔女の館を訪ねていった。そのアーリィがここにいるということは――――。
「ではここは・・・・・・あなたの館?」
「おやおや、知らずにやってきたのかい?幻術を破ってまで」
 くっくっと、魔女は低く笑った。出会った時から妙な気配を持った少女だと感じ取っていたが、よもや魔女の幻術を破る能力があるとは思っていなかった。
 ――――やはり、生かしておくのは危険か――――魔女がそんな物騒な思考を巡らせていた時、なんとも場違いな、呑気な声が上がった。
「あんた誰?」
 こめかみの辺りをぼりぼりと掻きながらのシンディの声に、ルーティは我に返ったように振り向く。そのとき、シンディの目と視線が合った。
「知り合いなのかい?」
 今度はルーティに質問を投げかけるシンディ。
「あ、えっと・・・知り合いと言うか・・・・・・」
 ルーティは視線をさまよわせる。なんと言えばいいのやら――――。しばらく逡巡とした結果、
「今朝方遭遇しました・・・ま、魔女です・・・・・・」
 そう表現するしかなかった。途端、予想通り、シンディとリューナは眉をひそめた。”なんだそれ?””そんなものがいるのか?”といった表情だ。
「ふ・・・ん?王立騎士団の輩だね」
 魔女はそう呟くと、さっと二階からロビーへ軽やかに降り立った。そして――――、
「そっちは、アイセント先代王の庶出の姫、シンディだね」
 庶出の姫――――つまるところ、一国の王女であるということだ。それをゆっくり理解したルーティは、素っ頓狂な声を上げた。
「ええぇぇぇえ!?」
 シンディは舌打ちする。
「余計なこと言うんじゃないよ」
「噂どおり、とんだはねっ返りのようだね」
 シンディを値踏みするように、上から下から眺め回す魔女。
「しかし、現王フェイロンはあんたに甘いらしいね」
 ゆっくりとした足取りで、シンディに近寄る魔女。そうして、にやりと口の端を吊り上げ、
「いい手駒になりそうだ・・・・・・あんたも手に入れておこう」
 言うや否や、魔女は黒い鉤爪を伸ばし、シンディに襲い掛かった!
「シンディさん!」
「隊長!」
 ルーティとリューナが駆け出すが、魔女の動きの方が早い!だが――――、
「ガキッ!!」
 という音を立てて、魔女の鉤爪はシンディの腕に巻かれた銀の篭手で受け止められた。
「ふんっ!やるじゃないか!」
 魔女はざっと五メートル後方に飛び退いた。そこへ、数瞬前まで魔女がいた床に、抜剣したリューナのレイピアが突き刺さる。
「あんたもいい腕だ・・・・・・二人とも欲しいねぇ」
 口元を妖しく歪めながら、今度はリューナも値踏みする魔女。
「そんなことはさせません!」
 二人と魔女の間に立ちはだかったのは、茶色い髪と、不思議な光沢をたたえた茶色の瞳の少女。
「あんたはいらない・・・・・・あたしの邪魔になるから」
 魔女は黒々とした瞳に剣呑な光を宿し、ルーティを見据え、自らの首を掻き切る真似をした。それの意味するところは――――「死」!

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虹を架ける者--------第12話
 天井に煌くシャンデリア。広間中の壁にかけられた黒絹のカーテン。床には毛足の長い極上の深紅の絨毯。
 小ぶりながら大国の玉座の間にも引けを取らぬほど、見事に洗練された広間に対峙するのは、長い黒髪を弄ぶこれまた極上の美女と、青い顔色にもかかわらず、まなじりきつく美女を睨みつけている赤い髪の美少女。
「よくきたねぇ」
 真っ赤な唇をくっと吊り上げ、美女――――魔女ナスティカは満足そうに頷く。
「で?毒の抜き方は?」
 左腕に巻いた白いバンダナ――――今では毒のせいか黒くなっている――――を押さえながら、少女――――アーリィがますます魔女を睨みつける。
「せっかちだねぇ」
 魔女は、玉座を思わせる豪奢な椅子に腰掛け、傍の台座に置かれている水晶玉をひと撫でする。すると、今まで遮られていた右手にある漆黒のカーテンが開き、この広間と間続きの部屋が露になった。
「その部屋の泉に身を浸しな。そうすりゃ毒は消える」
 その部屋は全体的に霧がかっていてよく見えないが、確かに泉のようなものが見て取れる。
 アーリィは慎重に魔女と泉を交互に見比べた。果たして本当にこの泉で――――?
「疑ってるのかぃ?あたしは嘘はつかないよ?」
 ふふん、と鼻で笑う魔女。アーリィは唇を噛み締める。疑ったところで、自分にはどうすることも出来ないことを痛感したのだ。
 アーリィは意を決して泉の部屋に一歩足を踏み入れた。途端、血生臭さにうっと口元を覆う。
 暗くてよくわからなかったが、泉の色は深紅で、部屋を取り巻く霧は、泉から沸き出ている湯気であった。さらに、泉の中には二~三人の人影があった。
「こ・・・これは・・・・・・」
「泉というよりは温泉かねぇ・・・・・・鮮血のね」
 絶句しているアーリィに追い討ちをかけるように、魔女は高らかに笑った。
 アーリィの頭の中で、警鐘が鳴り響く。この泉は危険――――入ってはならないと。
「さぁどうしたんだい?その泉じゃないと毒は消せないよ?」
 魔女は挑発するように嘲笑う。
 毒を解かねば主人の元には戻れない――――しかし、この泉は毒を解く以外にも何かありそうだ――――アーリィが逡巡としていると、ふいに魔女がいぶかしむ声を上げた。
「ん?・・・・・・幻術が破られた・・・・・・」
 その声に振り返ると、魔女は手をかざした水晶玉に見入っていた。
「侵入者だね・・・・・・おやおやこれは・・・」
 眉間に皺を寄せていた魔女の表情が、みるみる笑顔に変わっていった。獲物を見つけたといわんばかりの、危険な笑みだ。
「どうやらここまで追って来たようだよ、あんたのご主人様」
「えっ!?」
 魔女の楽しそうな様子とは対象に、アーリィの顔色がますます青くなった。
「あんたのご主人様はあたしがもてなしておくから、あんたは早々に毒を抜くんだね」
 艶然と微笑むと、魔女は衣を翻し、瞬時にして広間から姿を消した。
「そんなまさか・・・・・・ルーティさま・・・・・・」

「こんな所にこんな城があるとはね・・・・・・」
 ルーティにより幻術が破られ、露になった城のロビーに足を踏み入れながら、シンディは感嘆の声を上げる。
「いったいどなたの居城なのでしょうね?」
 辺りに気を配りながら、リューナが後に従う。
「まさかこれが『封龍』のアジトなんでしょうか?」
「さてねぇ・・・・・・盗賊団ごときにこんな手の込んだアジトが用意できるとは思えないけどねぇ」
 そんな会話を交わしながら、シンディはずかずかと、リューナは慎重に、最後尾をルーティがロビーを進む。三人がちょうどロビーの中央に来た時だった。
「ようこそ・・・・・・我が城へ」
 頭上から降ってきた声に、三人は一斉に天井を仰ぐ。
 ロビーの天井は吹き抜けになっており、左右から伸びる階段から続く廊下の手すりに、大胆な漆黒の長衣をまとった妖艶な美女が腰掛けていた。
「あ!あなたは!」
 ルーティは驚きの声を上げた。
「また会ったねぇ・・・・・・お嬢ちゃん」
 妖しく微笑む魔女とルーティの間に、視線の火花が散った。

虹を架ける者--------第11話

 昆虫の国、アイセントの北部中央は、岩山ばかりの不毛の荒野。そんな地でも、たくましく生き抜く小動物や小さな虫たちは、北西へとひた走る二頭の大蟷螂に蹴散らされまいと、岩陰に素早く避難した。
 巣穴の目前を、砂煙を上げて二頭の大蟷螂が駆け抜けていく。
 前を走る大蟷螂に騎乗してるのは二人、王立大鎌騎兵隊隊長のシンディと、お嬢様育ちを隠しきれない訳有りの旅人ルーティ。後ろの蟷螂に騎乗しているのは一人、王立大鎌騎兵隊隊員のリューナである。
「だいぶ走ってきたが、アジトらしいものは見当たらないな」
「もうそろそろ最北端のメガラロックに行き着きますよ」
 砂埃を浴びないよう、フードを目深に被り、布で口元を覆っているが、シンディとリューナは疾走を続けながら難なく会話を交わす。
 吹き過ぎる風が痛くて、目すら開けていられないルーティは、二人に続いて会話に加わろうと果敢に挑戦するが、なかなか上手くいかない。
「メ・・・ガラロッ・・・ク?」
 そう絞り出すのがやっとだった。
「巨大な一枚岩のことさ。頂上は目視では確認できないし、端から端まで数千kmもある、とてつもなく巨大な岩のことさ」
「そこが我が国の北端になります」
 アイセントの北と国境を接しているのは、砂漠の国デイザーだ。そのメガラロックから北へ行くと、徐々に砂漠が広がっているという。
「神々の寝台、とも言われててね・・・って、だいぶ前から見えてるだろ?」
 シンディは前方を指差すが、砂埃が痛くてずっと目をつむっていたルーティには見えていない。なんとか目を開けて見てみようとするも、びしびしと風や砂が顔にぶち当たっている状況では、ほんの少しも開けていられない。
 そうするうちに、騎乗していた大蟷螂がふいに停止した。
「ほら、麓に着いた」
 停止したことで風と砂の負荷が和らぎ、ルーティはようやく目を開けることができた。そうして前を向いた彼女の口が、知らず知らず大きく開かれていった。
「す・・・・・・すごい・・・」
 眼前には、継ぎ目の一切ない岩が、上にも左にも右にも続いていた。まったく端が見えない――――それほどの巨大な一枚岩だった。
「さて・・・どうしたもんかね。メガラロックを迂回して、さらに北西へ向かうべきかな?」
 シンディとリューナが目指していたのは、盗賊団「封龍」のアジト。昨日捕らえた下っ端の自供により、マンセンから北西へ走ってきたわけだが、それらしい建造物は見られなかった。
「許可なく国境を越えるのはまずいですよ」
 さらに北西へ――――ということは、北の隣国デイザーに入るということ。正式な軍に所属している者が許可なく踏み入ることは、領域侵犯とみなされ、両国の戦争に発展しかねない。
「む~・・・・・・見落としてはいない・・・よな?」
「隊長じゃあるまいし・・・・・・見落しはあり得ません」
 澄ました顔で、聞き捨てならないことを言ったリューナに、シンディが詰め寄ろうとした時、大蟷螂に腰掛けたままだったルーティが、半ば落ちるように降り立った。
 そして、前方を見据えたまま、ゆっくりとした足取りでメガラロックに近寄る。
「なにか・・・・・・あります・・・隠されています」
「え?隠されてるって・・・?」
 ルーティの突然の言動に、シンディとリューナは眉根を寄せる。
「幻術・・・・・・幻で、実際にあるものをないように見せる・・・そんな術があります」
 ルーティはそっと、前方に手をかざした。すると、そこに不可視の壁でもあるかのような手ごたえがあった。
「幻術・・・ですか・・・・・・我が国はそういった類の術には精通してませんからね」
 本当にそんなものがあるのかさえ、二人にはわからない。正直、ルーティの言っていることも、半信半疑――――いや、七割ほど疑わしい。
「私が破ってみます」
 そう言い放つなり、ルーティは纏っていた外套を脱ぎ捨て、懐に隠れていたキャッパーを肩に乗せ、手を組み、祈りの姿勢をとった。
 なにやら重厚な雰囲気を漂わせ始めた少女に、大人の女性二人はかける言葉を失い、ただ静かに見守った。そして――――、
「解!」
 小さいが、はっきりとした声がしたかと思えば、何かが割れて四散したような音が聞こえた。すると、閉められていたカーテンが開くように、今まで見えなかった建造物が徐々に姿を現していった。
 そうしてとうとう、三人の眼前には、岩肌を掘って作られた小さな城が出現していた。

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