FC2カウンター なすかの世界 2006年09月
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LEVEL0  炎の守護顕獣-----守護の一族

      0-4 爆

 大陸一つを支配するラ・カンティ帝国。その西域最大の街、シーアルスに四人の旅人が到着したのは、外門が閉じる直前のことだった。
 彼らは、宿をとって休むことなく、足早にある建物に入っていった。
 質素な造りのそれは、大きな街には必ず存在する、魔術院と呼ばれるものであり、そこでは、魔術を学びたい者にそれを教え、また、不可思議な現象、物などを調べてくれる場でもある。
 四人の旅人の目的は、後者の調べ物――――そう、額に、得体の知れない石が張り付いている、ユーラを調べてもらうことだ。
 すでに、帰り支度を始めていた調査員に、強引に頼み込み、調べてもらった結果は――――。
「これは、何やら異質なものにとり憑かれてますねぇ」
 薄く、丸く削りだされた水晶を両目に当てながら、調査員の男はおっとりとそう言った。
「・・・・・・憑かれてる?」
 きょとんと、オウム返しにするナーヴァ。
「それは・・・つまるところ・・・幽霊・・・ってことかい?」
 眉間にぎゅっと皺を寄せるシャイア。
「いえ、幽霊ではありません。マイナスの気を発してませんから」
 丸水晶――――眼鏡をクイクイと動かしながら、やはりのんびりと答える調査員。
「・・・・・・では、その正体は何です?」
 静かな声音で尋ねるベイルの質問にも、
「わかりませんねぇ。未知のものとしか言いようがありません」
 と、あっさりと応じてきた。そして、
「これ以上のことは、ここでは調べかねますので、帝都の魔術院へ行かれてはいかがですか?」
 と、それだけ言うと、今度こそ帰り支度をして部屋を出ていってしまった。
 あとに残されたユーラ以外の三人は、閉じられた扉を睨むように見つめるばかり。
「あの・・・・・・帝都・・・・・・行くの?」
 遠慮がちに声を上げたのは、得体の知れない未知の存在にとり憑かれていると言われた張本人。
「えぇまぁ・・・・・・それについては、今日はもう遅いですし、明日話し合いましょう」
「そうだね、宿をとって、飯食って寝ちまおう」
 さも疲れた、と言わんばかりに、首を回すシャイア。
 魔術院を出た四人は、近くにあった中級の宿に入り、部屋を二つとって夕食を済ませ、各々寝台に潜っていった。
 なんといっても久しぶりの寝台である。特にこの三、四日ほどは強行軍だったために、三人はすとんと眠りに落ちていった。
 ただ一人、なかなか寝付けずにいたのはユーラ。”とり憑かれている”ということに、少なからず動揺を覚えていた。
(いったい、何なんだろう?わたし、どうなるのかな・・・・・・?)
 気にはなったが、それでもやはり彼女も疲れていたため、次第にまどろみ始めた。
 夢か現か、どちらともいえないその時に、彼女の名を呼ぶ声に気づいた。その声に意識を向けると、脳裏にぼんやりと赤い人影が浮かび上がった。
(誰・・・・・・?)
(我が名はフィール・フレイン、炎の守護顕獣と呼ばれる者なり)
(フィール・・・?守護顕獣・・・?)
 次第にはっきり見えてきた、炎を纏った男性の姿を目にするなり、ユーラは三日前のことを突然、思い出した。
(あなたはあの時の・・・・・・!)


「――――ラ!ユーラ!いつまで寝てるんだい!」
 シャイアの怒鳴り声と同時に、掛け布を剥ぎ取られたユーラは、寝台の上に飛び起きた。
 焦点の合わない目で辺りを見回すと、窓が目に入った。窓からさんさんと暑い日差しが振り込んでいる。もう、陽が高くなっているのだ。
「ちゃんと起きてるのかい?ユーラ?」
 未だぼんやりしているユーラを、少し心配そうな顔をして、シャイアが覗き込む。
「あ、うん・・・・・・おはよー」
「起きたね?それじゃさっさと着替えて下りてきな。朝飯食べながら、今後の相談だよ」
 まだはれぼったい目を手の甲で拭っているユーラに、着替えを投げ渡して、シャイアは部屋を出て行った。階段を下りる、軽快な足音が続く。
「・・・・・・・・・夢・・・だったのかなぁ?」
 炎の姿をした男性を思い浮かべながら、首をかしげる。夢にしては生々しく、また、現実にしては荒唐無稽だった。
「一応、みんなに話しておいた方がいいかな・・・?」
 着替え終わったユーラは、もそもそと寝台から下り、部屋を出た。階段を下りていくと、宿泊客や街の住人たちが朝食をとっている、賑やかな声や音が聞こえてきた。
「ユーラ!おはよう!こっちだよ!」
 ナーヴァの声に振り向いたユーラは、1階の、奥まったところにあるテーブルを陣取っている三人を見つけて、そちらに歩を進める。
「よく眠れましたか?」
 ベイルが椅子を勧めてくれながら、そう優しく微笑んだ。
「うん」
 ユーラも、椅子に座りながらにっこりと返す。
「さて、さっそくですが、昨日の調査結果のことについて――――」
 ベイルがそう切り出すと、すかさずナーヴァが手を上げる。
「やっぱ帝都に行くだろ?正体不明なんて気持ち悪いジャン?」
「あたしも同感だね」
 うんうんと頷くシャイア。
「そうですね、私もそう思います」
 ベイルも静かに頷く。しかし――――、
「あ・・・ちょっと待って」
 遠慮がちに異議を唱えるのは、とり憑かれてる張本人。三人の視線が一斉に集まる。
「あのね、夢・・・というか、夢じゃないとは思うんだけど・・・・・・」
「何が言いたいんだい!はっきりお言い!」
 しどろもどろと言いよどむユーラに、いらいらとしたシャイアが克を入れる。
「だ、だからね!帝都には行くなってフィールが!」
 びびっと背筋を伸ばして、ユーラは一気に告げた。
「・・・・・・フィール?」
「誰だそれ?」
「あ、そっか・・・えと・・・だからね」
 そうして、ユーラは昨夜、夢枕に立った炎の男性について語って聞かせた。
 フィール・フレインと名乗った男性は、ユーラに、帝都に行ってはいけない、ということと、”守護の一族”を探して欲しい、と言ってきたのだった。
「守護の一族?なんだよそれ?」
 訳が分からないと、ナーヴァは頬をふくらませる。
「フィールが言うには、四種の守護顕獣と供に、世界の秩序を保つために努めてる人たちなんだって」
「だいたい、その守護顕獣ってなんだい?」
 またまた、眉間に皺を寄せるシャイア。
「わたしもよく分からないけど、四種の力をそれぞれ司ってる存在なんだって」
「それで、なぜ、帝都に行ってはいけないと?」
 顎に長い指を当てながら、思案顔でベイルが問う。
「危険なんだって・・・・・・。フィールたち守護顕獣や守護の一族って人たち、皇帝に追われてるんだって」
「「なんだそりゃ!?」」
 シャイアとナーヴァの声が、きれいに揃った。
「皇帝・・・・・・ですか・・・・・・なるほど」
 ただ一人、ベイルだけが訳知り顔で頷く。
「なんだよ!?どういうことだよ、ベイル!」
 自分に知らないことがあるのが許せない年頃のナーヴァが、鼻息も荒く、ベイルを問いただす。
「聖賢王アルファーン皇帝陛下は、現在、混沌狩りの真っ最中だそうですよ」
「「「混沌狩り?」」」
 今度は、三人の声が重なった。
「皇帝陛下が混沌と判断されたものは全て、討伐されていると聞きます。つまり、ユーラの言う、守護顕獣や守護の一族とやらは、陛下に混沌と見なされた
のでしょう」
「・・・・・・だから、その守護顕獣とやらに憑かれてるユーラが帝都に近づくのは危険だと、そういうことなのかい?」
 剣呑な光を瞳に宿らせて、シャイアが低く唸る。
「そういうことなのでしょう」
「ふざけるな!!!」
 バン!とテーブルを割らんばかりに拳を打ちつけ、シャイアはユーラを――否、ユーラの額の赤い石を鬼のような形相で睨み、どなりつけた。
「だったらユーラから出ていきな!!」
 そんなものに憑かれていては、帝都に近づこうが近づかなかろうが、遅かれ早かれ、危険なことに変わりはない。シャイアにとって、ユーラは可愛い妹分――信じられないかもしれないが――なのだ、危険な存在には即刻立ち去ってもらわねばならない。
「あ、あの・・・・・・シャイア、落ち着いて・・・・・・」
「落ち着いてられるかい!!」
 今度はユーラ自身を睨みつけるシャイア。いつもなら、ここで怖気づくユーラだが、
「聞いて!シャイア!」
 と、彼女にしては珍しく、まなじりをきつくしてシャイアを真正面から見据える。意外な強さに、シャイアは押し黙った。
「フィールは・・・・・・守護顕獣が司ってる力は、この世界の安定に欠かせないものなんだって。だけど、単体でいては暴走するばかりで、誰かに憑いていないと力を発揮できないんだって。ほんとは、守護の一族の巫女さんに宿るものらしいんだけど、皇帝に――――」
 一気にまくしたてたユーラは、そこで言いよどむ。あとを引き取ったのはベイルだ。
「皇帝陛下に討伐されてしまった・・・というわけですね」
「そう・・・・・・なんだって・・・」
 四人の間にしばし沈黙が流れる。それを最初に破ったのは、素朴な疑問を抱いたナーヴァだった。
「暴走って・・・・・・どうなるんだ?」
 魔術師だけいに、力の暴走には常に気をつけている彼ならではの疑問だったかもしれない。
「えっとね・・・・・・フィールの場合は炎を司ってるから・・・・・・火山の爆発、とか?」
 とか?などと、可愛らしく首をかしげてもらいたくはない、内容だ。
「要するに、守護の一族を探さないことには、ユーラから離れない、というわけですね?」
 質問と言うよりは、確認を取るかのようなベイルの発言に、ユーラは小さく頷いた。
「まぁ、正体もなんとなく解ったことですし、帝都に行く必要はなくなったわけですが・・・・・・」
「え?解ったの?」
 ぎょっとするナーヴァ。それに対して、
「解ったでしょう?守護顕獣という、世界の安定に欠かせない存在だということが」
 いともあっさり答えるベイル。ナーヴァは、なんともいえない情けない顔をして、頭を抱えた。
「よくわかんねぇよぉ・・・・・・」
「帝都に行かないってのは、まぁいいさ。で?その守護の一族とやらは、どこにいるんだい?どうやって探すんだい?」
 不機嫌さを隠しもしないシャイアに睨まれても、ベイルは涼しい顔でこう答える。
「それについては、私の師匠に聞いたことがあります。守護の一族の里は秘められていますが、四方の拠点に、連絡役を務める者がいるそうです」
 これに対して、返ってきた反応は様々だった。
「一族のこと知ってたのかよ?ベイル!?」
「師匠って・・・・・・あの妖怪ジジィかい?」
「どこにあるの!?」
 ベイルはあくまで冷静沈着さを崩さず、ひとつひとつ答えていった。
「守護の一族について、ほんの少しだけ聞いていただけですよ」
「妖怪とは失礼ですね、単に老齢なだけですよ、だからこそ知識が豊富なんです」
「私が聞いた拠点は、北の方にある小さな町だけですよ」
 それを聞いたユーラの顔が、ぱぁっと明るくなった。
「そこ行きたい!お願い、教えてベイル!」
 何やら使命感に燃えているらしい少女に苦笑しつつ、ベイルは深く頷いた。
「また少し長旅になりますからね。今日一日準備をして、明日出発しましょう」
 ナーヴァとシャイアの苦虫を噛み潰したような表情とは対照的に、歓声を上げて喜ぶユーラ。
 ちょうどその時、何の偶然か、宿の厨房ではかまどの火が大きく跳ね上がっていた。


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LEVEL0  炎の守護顕獣-----守護の一族
     0-3 焔

 草色の布の下で姿消しの術を施しながら、一向は平原を西へと進んだ。
 長身のベイルの膝の高さに生い茂る草を、先頭を行くシャイアは慎重に踏み分けていった。
 なるべく音を立てないように息をひそめながらの行軍は、術を行っているナーヴァだけでなく、他の三人の精神も疲労させた。
 すでに二回の休憩を終えて、魔物に気づかれることなく半分を超えていた。
そして、一向はそろそろ三度目の休憩地点までやってきていた。
「‥‥この辺りで最後の休憩にしましょう」
「‥‥おう‥‥」
 ナーヴァは深いため息とともに術を維持させるための集中を解いた。そうとう疲れているようで、肩で息をしている。
「大丈夫?ナーヴァ‥‥」
 従兄弟がこんなに頑張っているのに、何も出来ない自分が情けない。ユーラは唇をかみしめる。いつもなら気にするなと明るく笑うナーヴァも、疲れきっていて顔を上げる余裕もない。
「しかし‥‥はたから見てると情けないだろうね‥‥」
 魔物を恐れて必死になって布切れ一枚にすがっている今の様は―――。シャイアは腕に自信の有る剣士だけに、面白くない気分だった。
「仕方有りません、無用な戦闘を避けるためです」
 シャイアの気持ちを察して、ベイルが苦く笑ったその時―――。
「ギャアアアァァ!!」
「!」
 非常に近くで魔物の鳴き声が辺りに轟いた。四人ははっと身構え、注意深く布の下から周りの様子をうかがった。すると、すぐ目の前を、大きな影が太陽光をさえぎって飛び過ぎていった。
「‥‥み、見つかったか!?」
 まだ息の切れているナーヴァが、座り込んでいた腰を少し上げる。
「‥‥‥いえ、まだのようですが‥‥‥」
「‥‥‥時間の問題だね」
 チャキッとシャイアの腰元で音が鳴る。彼女が剣を抜きにかかっているのだ。
「くそぅ‥‥‥勘の良いヤツだな‥‥」
「ど、どうするの?」
 ユーラは最悪の事態に狼狽し、一行の頭脳であるベイルにすがる瞳を向ける。それを真っ向から受け止めた彼は一度大きく頷き、
「こうなったらやるしかありません、シャイア、ナーヴァ!」
「ああ、やってやろうじゃない!」
「もう少し、休ませてほしかったけどな」
 シャイアはいまや完全に剣を抜き放ち、ナーヴァも深呼吸を繰り返して息を整える。
「わ、わたしは何をすればいい?」
 何も出来ないことは分かっているが、それでも何かやろうと問い掛けるユーラに、ベイルは布の端をしっかりと握らせた。
「君はこの布をしっかりと被って、あの森まで走りなさい」
「‥‥‥え?」
「いいですね」
 ベイルはそう念をおしてシャイアたちとともに外へ飛び出そうとする。慌てたユーラは必死で言葉をまくし立てる。
「そんな!みんなを置いて一人で逃げるなんて出来ないよ!」
「それじゃあ言ってやろうかい?足手まといだって!」
 眼光鋭くシャイアはユーラを睨み付ける。反論も何もかもすべて許さないとその瞳は語っていた。
 ユーラは、自身の力のなさに、泣きそうになるのをぐっと堪えて、小さく頷いた。言われるまでもなく、足手まといなのは解っていた。
「それでは行きなさい!」
 ベイルがユーラの背中を押した。飛び過ぎていた魔物が、悠然と旋回し、こちらに戻ってこようとしている。
 覚悟を決めて、布をしっかり握り締めたユーラは、森に向けて駆け出した。それと同時に、シャイアが魔物に向かって飛び出し、注意を引くため気合の声を上げた。
「おらー!こっちだ!デカブツ!」
「・・・・・・もはや女捨ててるねぇ」
 場違いな呟きをもらし、術のための集中に入るナーヴァ。
 ベイルは、携帯鞄からいくつかの薬草を取り出し、小皿に載せると、
「ナーヴァ、これを燃やしてください。魔物が嫌う匂いが出ます」
 と言いながら、空いてる手は別の薬草をまさぐっていた。
 みんな、闘うために一瞬たりとも無駄にしようとしない。何もできることがないならせめて、みんなの邪魔にならないよう、一生懸命走って逃げよう。
 ユーラのそんな決心はしかし、シャイアたちを無視した魔物によって砕かれることになる。
 魔物は、シャイアたちには目もくれず、ユーラの握る布を目指し、掠めて飛び抜けていった。魔物の起こした風に煽られ、ユーラは転倒した。そのはずみで布を手放してしまい、風にさらわれ、飛んでいってしまった。
 再び旋回した魔物は、あらわになったユーラ目指して、今度は鋭く光る鉤爪を向けながら飛来する!
「ユーラ!」
 シャイアとベイルが駆け寄ってくる!
 ナーヴァが目くらましの術に集中する!
 しかし、間に合わない!
 恐怖のあまり、声も出せずにただただ大きな鉤爪を見つめるユーラ。
(わたし・・・・やられる・・・・?)
 そう、半ば以上覚悟したとき、それは起こった。
 今まさに、捕らわれそうになったユーラの額から、赤い閃光がほとばしった!光は魔物を包み込むと、その身を一気に燃え上がらせた。
「ギョアアアアアアァァ!!!」
 突然のことに、鉤爪を引っ込め、ユーラを飛び越しながら、草原に落ちていく魔物。
「ギャオアァァァ!!」
 猛威を奮う炎に舐められ、魔物は苦しげに地をのた打ち回る。その様を、信じられない面持ちで見つめていたベイルは、あることに気がついた。
「炎が・・・・草原に燃え移っていない・・・・?」
 そのとおり、燃えているのは魔物だけで、その周囲の草花は焦げる事すらない。
「そ、そうだ、ユーラ!」
 ベイルの声に、硬直の呪縛から解放されたシャイアが、ユーラに駆け寄る。ユーラは、恐怖のためなのか、意識を失い、横たわっていたが、怪我をしている様子はない。
「ベイル!いったい何が起きたんだ!?」
 術に集中するため、目を閉じていたナーヴァには、赤い閃光が見えなかった。たとえ、見えていたとしても、何が起こったのかは、理解できなかったろう。ベイルとて、聞かれても答えられない。
「それよりも、今のうちに森の中へ!この騒ぎでは、新手が来るかもしれません!」
 ベイルの指示に頷き、シャイアはユーラを抱え上げると、森に向かって走り出した。ナーヴァもそれに続く。
 ベイルは最後に、ちらりと魔物を一瞥し、森へと駆け出した。
 魔物はもはや、声を上げることすらできずにいた。生命力とともに、荒れ狂う炎も勢いを失いつつあった。
「ユーラの様子はどうです?」
 森の中に入り込み、周囲を警戒しながらシャイアはユーラを降ろす。三人はそっと、ユーラの顔を覗き込んだ。
 彼女の額に埋め込まれた赤い石が、ゆっくりと明滅していた。
「・・・・・・・・・・・」
 三人は、何も言えず、ただただユーラを見つめていた――――。

LEVEL0  炎の守護顕獣-----守護の一族
     0-2 灯

 暑い太陽が照りつけるその下で、4人の旅人が西へと向かっていた。ユーラ、シャイア、ベイル、ナーヴァの4人である。
 先日の、ユーラの身に起こった不可思議な事件の現場からすでに2日経つ。
その間、ユーラには特に異変はなかった。
「明日、明後日には街につくでしょう」
 ベイルは少し、暗い顔でそう皆に告げた。
 この2日間、食事と夜営以外に休憩らしい休憩を取っていない一行である。
疲れているのも当然だ。だが、彼の表情の暗さは疲労からくるものではなさそうだ。それに気づいたシャイアが、
「何か問題でもあるのかい?」
 彼女の発言に、気づいていなかったユーラとナーヴァが、ベイルに注目する。なるほど、何か浮かない顔をしている。
「いえ、ね‥‥。村の長老から聞いた話を思い出したのですが‥‥‥」
「どんな話だい?」
「魔物の狩り場の話です」
「魔物の狩り場?そんなの聞いたことねぇな」
 ベイルはちらりと皆の顔を見て、そして立ち止まった。
「休憩ついでに、少し話しましょうか」
 ユーラたちはそれに頷き、手ごろな岩陰に腰を下ろした。そうして、ベイルの話を静かに待つ。
「ある平原のことだそうです。なんでもそこは、ドラゴン‥‥とまでは言わなくても、その眷族に当たる魔物が多数棲息しているそうです」
「ドラゴンの眷族?それって‥‥‥」
「ええ、とても危険です。特に翼のあるモノが多いそうです」
「それだと、あたしは役に立たないね」
 シャイアが悔しげにつぶやく。剣士にとって、切ることの出来ない死霊などの魔物だったら、剣に聖水をかければ問題ないわけだが、空を飛ぶ魔物は剣の届かない範囲から攻撃してくる。これほど厄介なものはない。
「‥‥‥もしかして、この先にその平原があるの?」
 遠慮がちなユーラの発言に、ベイルは少し驚いた表情を見せる。
「ユーラは察しがいいですね。そういえば以前からそうでしたか」
 そう言ってユーラに満面の笑みを贈ったベイルは、瞬間、真剣な表情に変えてそのとおりだと皆に頷いた。
「ホ、ホントかよ?」
「ええ、長老が話してくれた、村からの距離や方角を考えると、間違いないでしょう」
「それなら、迂回するのが一番‥‥‥」
 そこまで言って、シャイアは難しい顔をする。
「ええ、あまり時間を無駄にするわけにはいきません」
 シャイアの後をとったベイルと、難しい顔をしたままのシャイアは、そこでちらりとユーラを見た。二人に突然見つめられたユーラはきょとんと見つめ返す。
「‥‥‥今まで、何の変化もなかったけど、この先もないとは‥‥‥」
「そうです、この先もないとは言いきれません」
「そうか!そうだよな!」
 シャイアとベイルの思慮深さに感心するナーヴァ。ユーラは、どう反応していいか分からないでいる。
「‥‥というわけで、行きましょうか」
 先ほどまでの重い雰囲気を払うように、軽く微笑みながらベイルが立ち上がった。続いてシャイアやナーヴァが立ち上がったのを見て、ユーラも慌てて腰を上げる。
 それから、休憩なしで数時間歩くと、ずっと続いていた岩地から景色は次第に平原へと変わっていった。
 最後の岩をいよいよ通り抜けるというところで、一行は示し合わせたかのように同時に立ち止まった。
「‥‥‥一見したところ‥‥何もいなさそうだな」
 彼らは岩陰から平原の様子を探ってみたが、ただの鳥すら見当たらない。
「‥‥‥念のため、探ってくれますか?ナーヴァ」
「へ?‥‥‥ああ、あれでね。わかった、ちょっと待ってくれ」
 そう言うとナーヴァは、目を閉じて大きく深呼吸した。そして、
「この瞳に集まれ、魔力よ・・・・・・」
 傍目には分からないが、勘の良い者なら魔力が彼に集まっているのに気づいただろう。彼の仲間のうち、ベイルは実は魔術師としての才能がある。そのため魔力を感じるのは造作もない。
 シャイアは戦士としての勘を育てたために、魔力を感じることは出来ない。
 そしてユーラは、ごく平凡な少女だ。が、この時、彼女は初めて魔力をその身で感じ取っていた。その事実に、ユーラは少なからぬ動揺を覚えた。
「遠くまで‥‥‥もっと遠くまで‥‥‥」
 ナーヴァは今、瞳に魔力を持たせて遠くまで見渡せるようになるという魔術を行っているのだ。
 平原を西に突き抜ければ森に行き当たる。北には高い山がそびえ、魔物たちの住処は主にその山だ。ナーヴァはいったん魔力の瞳を森まで伸ばし、そして山へと向けた。
 魔力の瞳は、山のいたる所に魔物の巣を見出した。そして、その巣の中には翼を休めながら平原に獲物がやってくるのを待つ、異形の姿があった。その異形のものは気配を感じたのか、魔力の瞳に向かって威嚇の咆哮を上げた。
「うわあ!」
 ナーヴァは突然のことに仰天し、術のための集中を解いてしまった。
「さて、どうしたものか‥‥‥」
 少年魔術師の反応から、魔物の存在を確信したベイルは難しい顔をする。
「こっそり進む‥‥なんてことは出来ないだろうね」
 遠い森と近い山を交互に見比べながら、シャイアがため息をつく。ユーラは仲間たちを見つめていることしか出来ない。
「でかい魔術をやるには長い集中がいるし‥‥ほとんど集中のいらない術じゃ威力はねぇしなぁ‥‥‥」
 魔術を行うために集中している間、魔術師は全くの無防備になる。そのため一般的に魔術師は護衛を幾人か連れているのである。
 ナーヴァの仲間は三人。うち、ユーラは戦闘員として数えられない。薬草師のベイルは、武器を扱えないこともないが、剣士のシャイアほどの戦闘力は望めない。そのシャイアとて、今回ばかりは他人を守る余力はなさそうだ。
 あえて危険を犯さず迂回すると、今度はユーラに時間的な危険が増す。彼女の身に何が起こったのか分からない以上、一刻でも早く魔術院で調べてもらわねばならないのだ。
「ナーヴァ、姿消しの術は使えますか?」
「ん?‥‥使えなくはないけど、集中したまま歩くとなるとオレ一人で精一杯だ。四人まとめてだと‥‥‥」
 ナーヴァはそこで平原を見つめ、自分の精神力と森までの距離を測った。
「‥‥半分も行けないな」
「半分‥‥近くは行けるということですか?」
「ああ、けど、そこまで行ったらへたばって後は何も出来ないぜ」
 それではどうぞ食べてくださいと言っているようなものだ。考えたベイルは荷袋の中から一枚の布を取り出した。それは草色をしたかなり大きなものだった。
「こうしましょう」
 布を大きく広げたベイルは、三人にその下へ入るように言った。そして、
「この布ごと姿消しの術をかけて行きます。途中‥‥そうですね、三ヶ所くらいで術を解いて休憩をしましょう。術がかかっていない間は、この布がごまかしてくれると思うんです」
「それは‥‥‥通用するかな‥‥?」
「通用しなかったときは闘うしかありませんね」
 危険だがそれ以外に方法を思い浮かべない一行は、シャイアを先頭に、ナーヴァを間に挟んで、三角形の形になるようにユーラとベイルが後ろに並ぶ。ナーヴァ以外、それぞれ布の端をしっかり握って、彼らはとうとう『魔物の狩場』に足を踏み入れた。

LEVEL0  炎の守護顕獣-----守護の一族


     0-1 炎


「―――ラ!ユーラ!」
 遠くから自分を呼ぶ声に応え、意識を深淵から浮上させてユーラは目を覚ました。
「ユーラ!気がついた!?」
 心配そうに覗き込んでいるのは、彼女の従兄弟のナーヴァだ。
「‥‥ナーヴァ?‥‥あれ?わたし‥‥‥」
 消えかかる焚き火の側に倒れ込んでいる自分に気づき、ユーラは首をかしげた。何をしていたのか思い出せない。
「いったいどうしたのさ!何があったんだい!?」
 険しい顔をしたシャイアに問い詰められるが、ユーラは首をかしげるばかり。
「ええと‥‥確か‥‥薪を集めて、火をつけて‥‥それから‥‥」
 彼女は懸命に記憶をたどるが、それ以降のことは全く覚えていない。ぷっつりと途切れてしまっている。
「‥‥‥待ちくたびれて居眠りしてしまったとか?」
 柔らかくそう言ったのはベイルだった。口元は微かに苦く笑っている。
「‥‥‥そう‥‥なのかなぁ?」
 そう言われるとそんな気がしてくる。
「おいおい、しっかりしてくれよ、ユーラ」
 ナーヴァは半ば呆れ、半ばほっとして笑った。ベイルも今度ははっきりと苦笑している。だが、
「何言ってんだい!だったらこれは何だってのさ!」
 そう叫ぶと、シャイアはいきなりユーラの額にかかる髪を跳ね上げた。そして、その額を見たナーヴァとベイルの顔色が変わった。
「な、なんだそれ!?」
「これは‥‥!」
 ユーラの額を凝視したまま言葉を詰まらせた二人の様子を見て、ふと不安にかられたユーラは自分の額に手を伸ばした。
「え‥‥‥?」
 額に手を置いたまま、ユーラの動きが固まった。指先に、何か固い感触がある。しかも二つ並んで――――。
「いったい何があって、そんなもの額につけてんだい!」
 シャイアはユーラの肩を激しく揺さ振って問いつめる。
 シャイアが言う『そんなもの』とは、ユーラの額の真ん中に二つ並んでいる、大人の爪ほどの大きさの、紅い石のようなものだった。よくよく見ると、獣の目の形をしているように思える。
「ユーラ!」
「‥‥‥分からない」
 シャイアの激しさに、ユーラはようやくそれだけを言った。
 こんな石――のようなもの――は生まれたときからつい先刻まで無かった。
「分からないってどういうことだい!知らないうちにそんなものがついてしまったとでもいうのかい!」
「だって分からない!分からないんだものぉ!!」
「そんなはずないだろ!ユーラ、よく思い出してみろよ!」
 シャイアにナーヴァが加わり、ユーラを中心としていよいよ騒がしくなってきた。ここは森から少し離れた岩地。陽もそろそろ沈み始めており、岩陰や森の中に何が潜んでいるか分からない。ここで野宿しようというのに、あまり騒いで魔物を引き寄せるのはまずいのではないか。
 一人冷静なベイルは、ユーラから二人を引き離すと落ち着くようにと諭した。
「落ち着けだって?これが落ち着いてられるかい!」
「そうだよ!ベイル、澄ましてる場合じゃねぇぞ!」
「私はただ、場所をわきまえて欲しいといっているだけですよ」
「場所ぉ?!」
 そこで二人は我に返った。ベイルの言う通り、魔物や猛獣がうろつくこの辺りで騒ぐのは危険だ。
「解ってくれましたか?」
「ああ‥‥悪かったよ」
「ごめんな、ベイル」
 ベイルは二人ににっこり微笑むと、座り込んでいるユーラの前に膝を突き、静かに彼女の目を覗き込んだ。
「さて、ユーラ。君も落ち着いて、ゆっくりもう一度思い出してみなさい」
「ベイル‥‥」
 すがるような目をむけるユーラに、ベイルはその端正な顔に優しい笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫、ゆっくり深呼吸して、まず私たちと別れたところから思い出していきましょう」
「‥‥‥うん」
 ユーラは言われるまま大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出し、そうして順に思い出してみた。
「まず‥‥薪になる枯れ枝を森の入り口付近で集めた」
「そうですか、言い付けどおり森には入らなかったんですね」
「うん‥‥‥。それから火打ち石で火を起こして‥‥」
「上手く起こせたようですね」
「え‥‥?だって‥‥‥それくらい出来ないと」
 ユーラは照れたような、それでいて苦い笑みを浮かべた。ベイルは絶えず優しく微笑んでいる。
「で?それからどうしたんだい?」
 今度は優しい調子でシャイアが尋ねる。
「うん‥とね‥‥、火が消えないように見てて‥‥‥」
 そこまでの情景を思い出した時、脳裏で炎が爆ぜた。そのとたん、ユーラはいい知れない恐怖に襲われた。
「い、いや!いやぁ!思い出したくない!いやぁ!!」
 ユーラの突然の取り乱しように、彼女を囲んでいた三人は驚き、慌てて取り押さえた。
「どうしたんですか?」
「いや!思い出したくない!怖い!」
「怖い?何が怖いんだい!?」
「いや!いやぁ!!」
 ユーラが頭を抱えてうずくまってしまったその時、消えかかっていた焚き火の炎が大きく燃え上がった。
「うわぁ!」
 その炎に背後から襲われたナーヴァが、地を転がって寸前でよけた。
「な、なんだい!?」
 シャイアはすばやく振り向き構えたが、炎は少しずつ小さくなっていき、ついには消えてしまった。その頃には、ユーラの様子も落ち着いていた。
 ベイルとシャイアは互いに顔を見合わせ、そして首を振った。これ以上追求するとユーラの心が壊れてしまうかもしれない。
「だからって、このままほっとくわけにはいかないだろ!?」
 従姉妹を心配してナーヴァが叫んだ。シャイアたちだって放っておく気は毛頭ない。
「とにかく、どこか‥‥‥大きな街に行って魔術院で調べてもらうしかないでしょう」
「ああ、そうだね。ここからだと・・・・西に三日も行けばあったはずだ」
「‥‥‥シャイア‥‥‥」
 ユーラはシャイアに不安そうな瞳を向ける。軽くため息を吐いたシャイアは、
「心配しなくてもいいさ。なんとかなるって」
 頼もしい笑みをユーラに贈った。

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