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虹を架ける者--------第24話


 アイセント王国とデイザー王国の国境に当たる、巨大石――メガラロックの麓、崩落した小城の前に立つ野営テントの中で、イリス王国の第1王女であり、『巫女』の地位にあるルーティの話は続く。
「私とアーリィが国を出て旅をしているのは、この『結晶』の力を取り戻すためです」
 『結晶』の力が弱まっているのは以前から感じていた。たが、旅に出ることを決したのは、半年前に起きた事件のためだった。
「半年前?」
 特に思い当たることもないシンディは、その事件は、イリス国内でも小さなものだったのだろうと推測した。だが――――、
「はい・・・半年前に・・・あの恐ろしい出来事が・・・・・・!」
 ルーティは無意識に拳をかたく握り締めて、小さく肩を震わせた。そんな主人の様子を痛々しそうに見つめたアーリィは、主人の両肩にそっと手を添えた。

―――半年前の出来事――――

 その日、ルーティは『結晶』を祀っている神殿の最奥で、王国の安寧を祈っていた。傍には、侍女であるアーリィと、『結晶』が生み出した聖獣、小猿のキャッパーだけが控えていた。
 そこへ、普段の落ち着きぶりから想像もできないほど、血相を変えたナムレスが駆け込んできた。
 ここは神聖な祈り場。本来であれば、男性の入室は禁忌である。気色ばんだアーリィはナムレスを咎める。
「ナムレス様!いかに宰相である貴方様とはいえ、ここは男子禁制の場ですよ!」
「承知している!だが、ルーティさまに火急の知らせだ!」
 沈着冷静なナムレスらしからぬ、怒気をはらんだ声に、祈りを捧げ続けていたルーティは振り向いた。
「何事ですか?」
 さっとルーティの前に進み出て、ひざまずいたナムレスは、苦渋に満ちた表情と声で告げた。
「ただちに・・・お城にお戻りください・・・!国王陛下と王妃陛下が・・・・・・」
 一瞬、言いよどむナムレス。
「・・・?お父様とお母様がどうしたというのです?」
 不穏な空気を感じ取ったルーティは、胸の前で手を組み、ナムレスの次の言葉を待った。
「カイリス市長との謁見中に襲われ・・・国王陛下はお亡くなりに・・・王妃陛下も重傷を・・・」
「何ですって!?」
 ルーティは目の前が暗くなるのを感じた。かろうじて立っていられたのは、王女としての気構えを、幼い頃より叩き込まれていたためだろう。
「すぐに・・・戻ります!」
 ルーティはキャッパーを肩に乗せると、アーリィとナムレスを伴って帰城した。そして、両陛下が運び込まれたという、王族の私的な部屋が並ぶ棟の一室に案内された。
「お父様!お母様!」
 その部屋に、勢いよく走り込んだルーティは、部屋の奥に並ぶ二つの寝台のうち、片方に寝かされている人物の顔の上に、白布が置かれていることに衝撃を受け、立ち止まってしまった。
 その寝台に顔をうずめ、泣きじゃくっていた6・7歳くらいの少年が、ルーティの入室に気付いて顔を上げた。
「あねうえ!ちちうえが・・・ははうえが・・・!」
「・・・・・・レオン」
 それまで、呪縛されたかのように動きを止めていたルーティの足が、動き出した。
 弟であり、イリス王国第1王子であるレオンディクトの傍に歩み寄ると、少年は今度は姉であるルーティに取りすがって泣き始めた。
 しっかりと弟を抱きとめたルーティは、顔の上に掛けられている白布を、そっとめくり上げた。
 布の下から出てきたのは、彼女がよく知っている、だが、まったく生気の感じられない父王の顔だった。
「お・・・お父様・・・・・・」
 それ以上の言葉が出てこず、ただただ見入っていると、背後のもう一つの寝台から、か細い声が聞こえてきた。
「ルー・・・ティ・・・・・・」
 はっとしたルーティは振り向いた。そこには、胸から腹部にかけて、無残に切り裂かれ、血にまみれたドレスをまとった母が、力なく横たわっていた。
「お母様!」
 ルーティは、レオンディクトを抱きかかえたまま、母の寝台に駆け寄った。
「ルーティ・・・・・・よく・・・聞いて・・・」
「お母様!お母様!無理をなさらないで!今は静かに、安静にしてください!」
 そう叫ぶルーティの瞳から、知らず知らず、涙が溢れてきた。
「いいえ・・・よく、聞いて・・・」
 王妃は、力ない手を懸命に伸ばすと、ルーティの頬に触れた。
「七色に・・・輝く泉・・・を、探しなさい・・・・・・」
 ルーティは、頬に触れる母の手に、自らの手を重ねる。
「七色の泉?」
「その泉で・・・・・・『結晶』の力を・・・取り戻すのです」
「『結晶』の力を・・・?」
 泉のことも、『結晶』の力を取り戻すという話も、ルーティは初めて聞いた。
「いい・・・ですね?泉を・・・探す・・・のです、よ」
 そこで王妃は、今度はレオンディクト王子を見つめる。
「あなたは・・・王に、なるのです・・・姉様の言うことをよく聞いて・・・立派な王に・・・ね?」「ははうえ・・・・・・」
 王子は、目から涙を溢れさせながらも、力強く頷いた。それを見届けた王妃の手から、力が失われていった。
「ははうえ~!」
「お母様!」

 この日、イリス王国は、国王と王妃を同時に失ったのだった――――。


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虹を架ける者--------第23話


 本来一人用である野営テントの中に、大人が3人、子供が4人、車座になって座っており、彼らの中央には、輝きを無くした石が置かれている。
 7人は7様に、その石を見つめた。
「『虹の結晶』といったら、イリスに伝わるお伽話に出てくるやつかい?」
 しばしの沈黙を破ったのはシンディ。他国のお伽話を知っているとは―――、一応、一国の王女として、周辺諸国のことは学ばされているようだ。
「そうです、『虹の結晶』は、『虹の女神』というお伽話に出てきます」
 肯定したルーティは、一同を見渡した。
 イリス国の者であるアーリィとナムレスが知っているのは当然として、アイセント国の者であるシンディ、リューナ、デイザー国の者であるクレスとケンス、この四人の中に知らぬ者はいないようだった。
 それを確かめてなお、ルーティは目を閉じて、そのお伽話をごく簡単にまとめて話した。

===『虹の女神』===

 昔々、その国がイリスと呼ばれるずっと以前の話――――。
 自国の繁栄を願う、貧しい国の王子のもとに、虹色に輝く髪と瞳の女神が舞い降りた。
 王子と女神はともに愛し合い、国は、かつてない繁栄へと導かれた。
 その国がイリスと呼ばれるようになったある日、国中を混乱に陥れる瘴気がどこからともなく溢れ出した。
 女神は力の限りその瘴気を退けたが、力を使い果たし、愛する王子と子供たちを残して天へと還らねばならなくなった。
 還りゆく間際、女神は子供たちに石を授けた。悪しき気配から、国を守れるようにと――――。
 七色に輝くその石は、『虹の結晶』と呼ばれ、末永くイリスの国を守っているという――――。

 話し終えたルーティは目を開き、再び一同を見渡した。
「このお伽話は、単なる物語ではありません。我が国では、史実として伝わっております」
 ルーティはそこで静かに口を閉じ、他国の者であるシンディたち四人の反応を待った。真っ先に反応したのは、クレスとケンスの双子の少年たちだった。
「史実って・・・・・・ほんとにあったってこと!?」
「ほんとにほんとに女神が舞い降りたって事!?」
「「すっご~~~~~~い!!」」
 瞳を金剛石のように輝かせる二人の勢いに、思わず腰が引けるルーティ。
 興奮しまくる双子を手で制して静かにさせたシンディは、床に置かれた石を指差して言った。
「で、これがその女神から授かったモノだ・・・と?」
「はい、そうです」
 ルーティは、ひけていた腰を戻すと、こっくり頷いた。
 ルーティの言葉を受けて、シンディはさらに石を凝視する。
「そんな大層なモノには見えないね・・・・・・」
「隊長!」
 シンディが率直な感想を漏らした瞬間、リューナが小さく、だが鋭い非難の声を上げた。
 他所のお国の宝に向かって、何て事を言うのか!
「いや・・・だってさ、リューナ・・・・・・」
 非難を受けたシンディは、弱ったというように頬を掻いた。
「いいんですよ、『結晶』は今、力を失ってますから」
 シンディを庇うように、そっと補足するルーティ。
「失ってるって・・・・・・いつから?」
 本人に他意はまったくないのだが、無遠慮にもほどがある、とリューナはシンディの後頭部を叩きそうになり、すんでのところで思いとどまった。たとえそうは見えずとも、シンディは自国の『王女』であり、自身の『上司』なのだ。
 そんなリューナの様子を見て、沈んでいた心が少し軽くなったのか、ルーティはくすりと笑った。そして、再び真剣な面持ちになると、
「『結晶』の力が完全に失われたのは先ほど、魔女を退けた時です」
 そこでルーティはそっと『結晶』を撫でる。
「ですが、『結晶』の力が徐々に弱まっていることは、しばらく前から感じ取っていました」
 真実、永きに渡って『結晶』は『何か』からイリスの国を守っていた。それは、『結晶』と通じ、ともに守ってきた『巫女』の位に立つ者にはわかっている。
 お伽話や、先ほどの魔女の話から推察すると、『結晶』が退け続けたその『何か』とはおそらく――――、
「人心を惑わせ狂わせる、『瘴気』・・・・・・そしてそれは、あの魔女の仕業・・・」
 ルーティはぎゅっと唇を噛み締めた。


虹を架ける者--------第22話


 大陸のほぼ中央に、メガラロックという巨大な一枚岩がある。
 東西に横たわるその全長はおよそ3000km。標高は約5kmという、『神々の寝台』と呼ばれるに相応しい、超絶的な巨大さの岩だ。
 そのメガラロックの中央よりやや西寄り、南側のふもとで、崩落した小城が上げる土ぼこりの中に、十数人の人影が認められた。
 小城が崩れる直前に脱出してきた者たちだ。彼らは、もうもうと舞い上がる土煙の中、先刻まで存在していた城の跡を呆然と見上げていた。もっとも、約半数は怪我のためか気を失っており、地面に転がされている。天を仰いではいるが、当然見てはいない。
「何でいきなり崩れるんですか・・・?」
 おもむろに口を開いたのは、アイセントの大鎌騎兵隊員のリューナ。彼女は、崩落した城跡から、隊長であるシンディに視線を移した。その瞳を見たシンディは、
「あたしは何もやってないよ!」
 とても心外だ!といわんばかりに叫んだ。どうやら、リューナの瞳は、『隊長が何かやらかしたんでしょう?』と物語っていたようだ。
 今回はまったくの濡れ衣だったが、普段の行いからそういう疑いが掛けられたらしい。
「じゃぁ、何で崩れたんです?」
 なおも疑いの目を向けるリューナ。これに対してシンディは、自信なげに応えた。
「魔女がいなくなったから・・・?」
「え?いなくなったんですか?」
 初めて聞かされたことに、首を傾げるリューナ。
「あぁ、そうらしい。詳しい話は・・・・・・」
 リューナと向き合っていたシンディは、そこでルーティを顧みた。
「今からこのお嬢ちゃんに説明してもらう」
 リューナは改めて一同を見渡した。ルーティとアーリィは見知っているが、およそ30台の眼鏡を掛けた男性と、互いによく似た顔立ちをしている少年たちは初対面だ。
 これは、じっくりと、落ち着いた場で話を聞く必要がある――――。そう判断したリューナは、大蟷螂に積み込んでいる荷を解き始めた。
「テントをたてましょう、隊長」
「ふむ・・・そうだね」
 ここは岩ばかりの荒野。今は凪いでいるが、いつまた風が吹き始めるかわからない。だからといって、この大所帯で街まで移動するのもひと苦労だ。
 リューナの案に乗ったシンディは、自分の大蟷螂に積んであるテントを取り出し、手早くたて始めた。さすがにこの人数では、テントを二つたてても窮屈になるだろう。
「『封龍』どもはリューナのテントにまとめて突っ込んでおこう。あとはあたしの方のテントに入ってちょうだい」
 さすがに、アイセントの王女であり、騎兵隊の隊長の持ちテントは、一隊員のリューナのテントよりは広く、大きかった。しかし、7人も入ればやはり窮屈だ。
「さて・・・と・・・。まずは簡単に説明しておくよ」
 『封龍』以外の全員がテントに入り、腰を落ち着けたのを見計らって、シンディはまずリューナに、ごく簡単な説明をした。
 眼鏡の男性――ナムレスはルーティたちと同郷の者であり、少年たちは北の隣国、デイザーの双子の王子、クレスとケンス。彼らは魔女の手に落ち、城の中にあった『鮮血の泉』とやらに入れられいたらしいということ。
「で、魔女が消えた訳と、あんたたちが何者なのかを・・・ルーティ、話してくれるね?」
 シンディに、いつになく真摯な眼差しで見つめられたルーティは、傍に控えるアーリィとナムレスに目配せし、意を決したように話し始めた。
「私たちは、このアイセント国の西隣、イリス国の者です。私の名はルーシディティ。イリスの第一王女であり、巫女の位にある者です。アーリィは私の従者。ナムレスは、イリスにおいて、宰相の地位にある者です」
 一気にそこまで言うと、ルーティは居住まいを正し、
「正体を隠して貴国を旅していたこと、お詫び申し上げます」
 と、シンディやリューナに頭を下げた。
「イリスの巫女姫・・・・・・聞いたことがあるよ」
 ふむ、と頷くシンディ。
「イリスの宰相閣下は、切れ者で名が通ってますね」
 リューナは遠慮がちにナムレスを見る。ナムレスは軽く視線を合わせると、静かに会釈した。
「で?その巫女姫がなんだって正体隠してまでこの国に来たんだい?」
「それは・・・・・・」
 ルーティはそこで、ずっと握り締めていた結晶を取り出し、
「この我が国の秘宝、『虹の結晶』の力を取り戻すためです」
 そう言って、色がすっかり失われてしまった結晶を、テントの床に静かに置いた。

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