FC2カウンター なすかの世界 守護の一族
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
虹を架ける者--------第17話

 魔女の館の大広間に突然現れた七色の光は、二人の少女を魔女から庇うように空中で静止した。
「な・・・なに!?」
 それに驚いた魔女が手を止めた瞬間、光は輝きを増して室内を満たし、さらには廊下を伝って城中の隅々までをも、その光で照らし出した。
「ぅ・・・あ・・・あぁぁぁぁああ!!!」
 苦痛に満ちた、甲高い悲鳴が広間を響かせた。それを発しているのは、魔女だ――――。
 光がその勢いを徐々に弱めていくと、ルーティはその光の中に、小さな猿のようなシルエットを見出した。
「・・・キャッパー!?」
 しかしそのシルエットは、だんだん崩れていき、城中を満たしていた光が完全に消えた時には、誰かがこぼした涙のような形をした、拳大の石に変わり果てていた。
「あぁ・・・そんな・・・キャッパー」
 光を失い、床に落ちたその石を拾い上げたルーティは、そっと抱き寄せた。その時、とても聞き取りにくい、しわがれた声がした。
「それは・・・その石はぁぁぁ・・・」
 見上げたルーティの瞳に映ったのは、白髪で皺くちゃな姿をした、小さな老婆だった。それは、マンセンの街で出会った時の、占い師姿の魔女だった。
「まさかそれはぁ・・・虹の結晶ぉぅ・・・・・・」
 床に這いつくばった魔女は、苦しげな声を紡ぎだす。
「あれほどぉ・・・国を荒らしてぇ・・・探したというに・・・・・・見つからなかったのはぁ・・・お前が持っていたからかぁぁ・・・」
 石に向けて伸ばされた、魔女の骨ばった手を見つめていたルーティは、聞き捨てならないことを耳にし、柳眉を逆立てた。
「国を荒らした・・・・・・?」
 主人のその言葉に、アーリィもはっとする。
「まさか!我が国を瘴気で脅かしているのは、お前か!」
 アーリィはそう言い放つと、すっくと立ち上がり、今にも抜き放つ勢いで、短剣の柄を握り締めた。
「この石は、我が国を古の時から守護してくれた宝玉・・・・・・」
 ゆっくりと立ち上がったルーティはそっと瞳を閉じる。
「それが・・・ある日から国中に瘴気が溢れ、その気に毒された民たちは荒れに荒れ・・・ついには国王と王妃は弑逆され・・・・・・」
 言葉を一度切ったルーティは、閉じていた瞳をかっと開き、
「それはすべて、あなたの思惑ですか!!」
 毅然と立つルーティの瞳は爛々と燃え盛り、青い炎のようだった。
「き・・・ひ・・・ひひひひひひ」
 奇妙な笑い声を立てた魔女は、最後の力を振り絞るように立ち上がり、
「虹の結晶・・・・・・それは必ずこのあたしがいただく・・・」
 そうして、ずりずりと後退ったかと思うと、
「再び・・・力を取り戻すまで・・・お前に預けておいてやろうぞ!」
 さっとマントを翻した魔女は、一瞬のうちに姿を消してしまっていた。
「待て!」
 アーリィは、今しがたまで魔女が立っていた場所に駆け寄るが、もう姿はない。
「なんてこと・・・・・・」
 がっくりと床にくず折れたルーティは、手の中の結晶を見つめる。
「弱くなった結晶の力を蘇らせるために、七色の泉を探していたというのに・・・・・・」
 瞳を閉じ、結晶を額に当てて、
「残っていた力を、使い果たさせてしまった・・・・・・」
 そうして、ルーティの瞳からいくつもの雫が流れだした。
「キャッパー・・・・・・もう、あなたに会えない・・・」
 小猿のキャッパーは、虹の結晶の精ともいえる、結晶が作り出した聖獣だった。結晶に宿っていた力を使い果たした今、もはや小猿の姿をとることは出来ない。
「ルーティさま・・・・・・」
 嘆き哀しむ主人に、かける言葉が見つからず、アーリィはただただ見守った――――。

スポンサーサイト
LEVEL0  炎の守護顕獣-----守護の一族

      0-4 爆

 大陸一つを支配するラ・カンティ帝国。その西域最大の街、シーアルスに四人の旅人が到着したのは、外門が閉じる直前のことだった。
 彼らは、宿をとって休むことなく、足早にある建物に入っていった。
 質素な造りのそれは、大きな街には必ず存在する、魔術院と呼ばれるものであり、そこでは、魔術を学びたい者にそれを教え、また、不可思議な現象、物などを調べてくれる場でもある。
 四人の旅人の目的は、後者の調べ物――――そう、額に、得体の知れない石が張り付いている、ユーラを調べてもらうことだ。
 すでに、帰り支度を始めていた調査員に、強引に頼み込み、調べてもらった結果は――――。
「これは、何やら異質なものにとり憑かれてますねぇ」
 薄く、丸く削りだされた水晶を両目に当てながら、調査員の男はおっとりとそう言った。
「・・・・・・憑かれてる?」
 きょとんと、オウム返しにするナーヴァ。
「それは・・・つまるところ・・・幽霊・・・ってことかい?」
 眉間にぎゅっと皺を寄せるシャイア。
「いえ、幽霊ではありません。マイナスの気を発してませんから」
 丸水晶――――眼鏡をクイクイと動かしながら、やはりのんびりと答える調査員。
「・・・・・・では、その正体は何です?」
 静かな声音で尋ねるベイルの質問にも、
「わかりませんねぇ。未知のものとしか言いようがありません」
 と、あっさりと応じてきた。そして、
「これ以上のことは、ここでは調べかねますので、帝都の魔術院へ行かれてはいかがですか?」
 と、それだけ言うと、今度こそ帰り支度をして部屋を出ていってしまった。
 あとに残されたユーラ以外の三人は、閉じられた扉を睨むように見つめるばかり。
「あの・・・・・・帝都・・・・・・行くの?」
 遠慮がちに声を上げたのは、得体の知れない未知の存在にとり憑かれていると言われた張本人。
「えぇまぁ・・・・・・それについては、今日はもう遅いですし、明日話し合いましょう」
「そうだね、宿をとって、飯食って寝ちまおう」
 さも疲れた、と言わんばかりに、首を回すシャイア。
 魔術院を出た四人は、近くにあった中級の宿に入り、部屋を二つとって夕食を済ませ、各々寝台に潜っていった。
 なんといっても久しぶりの寝台である。特にこの三、四日ほどは強行軍だったために、三人はすとんと眠りに落ちていった。
 ただ一人、なかなか寝付けずにいたのはユーラ。”とり憑かれている”ということに、少なからず動揺を覚えていた。
(いったい、何なんだろう?わたし、どうなるのかな・・・・・・?)
 気にはなったが、それでもやはり彼女も疲れていたため、次第にまどろみ始めた。
 夢か現か、どちらともいえないその時に、彼女の名を呼ぶ声に気づいた。その声に意識を向けると、脳裏にぼんやりと赤い人影が浮かび上がった。
(誰・・・・・・?)
(我が名はフィール・フレイン、炎の守護顕獣と呼ばれる者なり)
(フィール・・・?守護顕獣・・・?)
 次第にはっきり見えてきた、炎を纏った男性の姿を目にするなり、ユーラは三日前のことを突然、思い出した。
(あなたはあの時の・・・・・・!)


「――――ラ!ユーラ!いつまで寝てるんだい!」
 シャイアの怒鳴り声と同時に、掛け布を剥ぎ取られたユーラは、寝台の上に飛び起きた。
 焦点の合わない目で辺りを見回すと、窓が目に入った。窓からさんさんと暑い日差しが振り込んでいる。もう、陽が高くなっているのだ。
「ちゃんと起きてるのかい?ユーラ?」
 未だぼんやりしているユーラを、少し心配そうな顔をして、シャイアが覗き込む。
「あ、うん・・・・・・おはよー」
「起きたね?それじゃさっさと着替えて下りてきな。朝飯食べながら、今後の相談だよ」
 まだはれぼったい目を手の甲で拭っているユーラに、着替えを投げ渡して、シャイアは部屋を出て行った。階段を下りる、軽快な足音が続く。
「・・・・・・・・・夢・・・だったのかなぁ?」
 炎の姿をした男性を思い浮かべながら、首をかしげる。夢にしては生々しく、また、現実にしては荒唐無稽だった。
「一応、みんなに話しておいた方がいいかな・・・?」
 着替え終わったユーラは、もそもそと寝台から下り、部屋を出た。階段を下りていくと、宿泊客や街の住人たちが朝食をとっている、賑やかな声や音が聞こえてきた。
「ユーラ!おはよう!こっちだよ!」
 ナーヴァの声に振り向いたユーラは、1階の、奥まったところにあるテーブルを陣取っている三人を見つけて、そちらに歩を進める。
「よく眠れましたか?」
 ベイルが椅子を勧めてくれながら、そう優しく微笑んだ。
「うん」
 ユーラも、椅子に座りながらにっこりと返す。
「さて、さっそくですが、昨日の調査結果のことについて――――」
 ベイルがそう切り出すと、すかさずナーヴァが手を上げる。
「やっぱ帝都に行くだろ?正体不明なんて気持ち悪いジャン?」
「あたしも同感だね」
 うんうんと頷くシャイア。
「そうですね、私もそう思います」
 ベイルも静かに頷く。しかし――――、
「あ・・・ちょっと待って」
 遠慮がちに異議を唱えるのは、とり憑かれてる張本人。三人の視線が一斉に集まる。
「あのね、夢・・・というか、夢じゃないとは思うんだけど・・・・・・」
「何が言いたいんだい!はっきりお言い!」
 しどろもどろと言いよどむユーラに、いらいらとしたシャイアが克を入れる。
「だ、だからね!帝都には行くなってフィールが!」
 びびっと背筋を伸ばして、ユーラは一気に告げた。
「・・・・・・フィール?」
「誰だそれ?」
「あ、そっか・・・えと・・・だからね」
 そうして、ユーラは昨夜、夢枕に立った炎の男性について語って聞かせた。
 フィール・フレインと名乗った男性は、ユーラに、帝都に行ってはいけない、ということと、”守護の一族”を探して欲しい、と言ってきたのだった。
「守護の一族?なんだよそれ?」
 訳が分からないと、ナーヴァは頬をふくらませる。
「フィールが言うには、四種の守護顕獣と供に、世界の秩序を保つために努めてる人たちなんだって」
「だいたい、その守護顕獣ってなんだい?」
 またまた、眉間に皺を寄せるシャイア。
「わたしもよく分からないけど、四種の力をそれぞれ司ってる存在なんだって」
「それで、なぜ、帝都に行ってはいけないと?」
 顎に長い指を当てながら、思案顔でベイルが問う。
「危険なんだって・・・・・・。フィールたち守護顕獣や守護の一族って人たち、皇帝に追われてるんだって」
「「なんだそりゃ!?」」
 シャイアとナーヴァの声が、きれいに揃った。
「皇帝・・・・・・ですか・・・・・・なるほど」
 ただ一人、ベイルだけが訳知り顔で頷く。
「なんだよ!?どういうことだよ、ベイル!」
 自分に知らないことがあるのが許せない年頃のナーヴァが、鼻息も荒く、ベイルを問いただす。
「聖賢王アルファーン皇帝陛下は、現在、混沌狩りの真っ最中だそうですよ」
「「「混沌狩り?」」」
 今度は、三人の声が重なった。
「皇帝陛下が混沌と判断されたものは全て、討伐されていると聞きます。つまり、ユーラの言う、守護顕獣や守護の一族とやらは、陛下に混沌と見なされた
のでしょう」
「・・・・・・だから、その守護顕獣とやらに憑かれてるユーラが帝都に近づくのは危険だと、そういうことなのかい?」
 剣呑な光を瞳に宿らせて、シャイアが低く唸る。
「そういうことなのでしょう」
「ふざけるな!!!」
 バン!とテーブルを割らんばかりに拳を打ちつけ、シャイアはユーラを――否、ユーラの額の赤い石を鬼のような形相で睨み、どなりつけた。
「だったらユーラから出ていきな!!」
 そんなものに憑かれていては、帝都に近づこうが近づかなかろうが、遅かれ早かれ、危険なことに変わりはない。シャイアにとって、ユーラは可愛い妹分――信じられないかもしれないが――なのだ、危険な存在には即刻立ち去ってもらわねばならない。
「あ、あの・・・・・・シャイア、落ち着いて・・・・・・」
「落ち着いてられるかい!!」
 今度はユーラ自身を睨みつけるシャイア。いつもなら、ここで怖気づくユーラだが、
「聞いて!シャイア!」
 と、彼女にしては珍しく、まなじりをきつくしてシャイアを真正面から見据える。意外な強さに、シャイアは押し黙った。
「フィールは・・・・・・守護顕獣が司ってる力は、この世界の安定に欠かせないものなんだって。だけど、単体でいては暴走するばかりで、誰かに憑いていないと力を発揮できないんだって。ほんとは、守護の一族の巫女さんに宿るものらしいんだけど、皇帝に――――」
 一気にまくしたてたユーラは、そこで言いよどむ。あとを引き取ったのはベイルだ。
「皇帝陛下に討伐されてしまった・・・というわけですね」
「そう・・・・・・なんだって・・・」
 四人の間にしばし沈黙が流れる。それを最初に破ったのは、素朴な疑問を抱いたナーヴァだった。
「暴走って・・・・・・どうなるんだ?」
 魔術師だけいに、力の暴走には常に気をつけている彼ならではの疑問だったかもしれない。
「えっとね・・・・・・フィールの場合は炎を司ってるから・・・・・・火山の爆発、とか?」
 とか?などと、可愛らしく首をかしげてもらいたくはない、内容だ。
「要するに、守護の一族を探さないことには、ユーラから離れない、というわけですね?」
 質問と言うよりは、確認を取るかのようなベイルの発言に、ユーラは小さく頷いた。
「まぁ、正体もなんとなく解ったことですし、帝都に行く必要はなくなったわけですが・・・・・・」
「え?解ったの?」
 ぎょっとするナーヴァ。それに対して、
「解ったでしょう?守護顕獣という、世界の安定に欠かせない存在だということが」
 いともあっさり答えるベイル。ナーヴァは、なんともいえない情けない顔をして、頭を抱えた。
「よくわかんねぇよぉ・・・・・・」
「帝都に行かないってのは、まぁいいさ。で?その守護の一族とやらは、どこにいるんだい?どうやって探すんだい?」
 不機嫌さを隠しもしないシャイアに睨まれても、ベイルは涼しい顔でこう答える。
「それについては、私の師匠に聞いたことがあります。守護の一族の里は秘められていますが、四方の拠点に、連絡役を務める者がいるそうです」
 これに対して、返ってきた反応は様々だった。
「一族のこと知ってたのかよ?ベイル!?」
「師匠って・・・・・・あの妖怪ジジィかい?」
「どこにあるの!?」
 ベイルはあくまで冷静沈着さを崩さず、ひとつひとつ答えていった。
「守護の一族について、ほんの少しだけ聞いていただけですよ」
「妖怪とは失礼ですね、単に老齢なだけですよ、だからこそ知識が豊富なんです」
「私が聞いた拠点は、北の方にある小さな町だけですよ」
 それを聞いたユーラの顔が、ぱぁっと明るくなった。
「そこ行きたい!お願い、教えてベイル!」
 何やら使命感に燃えているらしい少女に苦笑しつつ、ベイルは深く頷いた。
「また少し長旅になりますからね。今日一日準備をして、明日出発しましょう」
 ナーヴァとシャイアの苦虫を噛み潰したような表情とは対照的に、歓声を上げて喜ぶユーラ。
 ちょうどその時、何の偶然か、宿の厨房ではかまどの火が大きく跳ね上がっていた。


LEVEL0  炎の守護顕獣-----守護の一族
     0-3 焔

 草色の布の下で姿消しの術を施しながら、一向は平原を西へと進んだ。
 長身のベイルの膝の高さに生い茂る草を、先頭を行くシャイアは慎重に踏み分けていった。
 なるべく音を立てないように息をひそめながらの行軍は、術を行っているナーヴァだけでなく、他の三人の精神も疲労させた。
 すでに二回の休憩を終えて、魔物に気づかれることなく半分を超えていた。
そして、一向はそろそろ三度目の休憩地点までやってきていた。
「‥‥この辺りで最後の休憩にしましょう」
「‥‥おう‥‥」
 ナーヴァは深いため息とともに術を維持させるための集中を解いた。そうとう疲れているようで、肩で息をしている。
「大丈夫?ナーヴァ‥‥」
 従兄弟がこんなに頑張っているのに、何も出来ない自分が情けない。ユーラは唇をかみしめる。いつもなら気にするなと明るく笑うナーヴァも、疲れきっていて顔を上げる余裕もない。
「しかし‥‥はたから見てると情けないだろうね‥‥」
 魔物を恐れて必死になって布切れ一枚にすがっている今の様は―――。シャイアは腕に自信の有る剣士だけに、面白くない気分だった。
「仕方有りません、無用な戦闘を避けるためです」
 シャイアの気持ちを察して、ベイルが苦く笑ったその時―――。
「ギャアアアァァ!!」
「!」
 非常に近くで魔物の鳴き声が辺りに轟いた。四人ははっと身構え、注意深く布の下から周りの様子をうかがった。すると、すぐ目の前を、大きな影が太陽光をさえぎって飛び過ぎていった。
「‥‥み、見つかったか!?」
 まだ息の切れているナーヴァが、座り込んでいた腰を少し上げる。
「‥‥‥いえ、まだのようですが‥‥‥」
「‥‥‥時間の問題だね」
 チャキッとシャイアの腰元で音が鳴る。彼女が剣を抜きにかかっているのだ。
「くそぅ‥‥‥勘の良いヤツだな‥‥」
「ど、どうするの?」
 ユーラは最悪の事態に狼狽し、一行の頭脳であるベイルにすがる瞳を向ける。それを真っ向から受け止めた彼は一度大きく頷き、
「こうなったらやるしかありません、シャイア、ナーヴァ!」
「ああ、やってやろうじゃない!」
「もう少し、休ませてほしかったけどな」
 シャイアはいまや完全に剣を抜き放ち、ナーヴァも深呼吸を繰り返して息を整える。
「わ、わたしは何をすればいい?」
 何も出来ないことは分かっているが、それでも何かやろうと問い掛けるユーラに、ベイルは布の端をしっかりと握らせた。
「君はこの布をしっかりと被って、あの森まで走りなさい」
「‥‥‥え?」
「いいですね」
 ベイルはそう念をおしてシャイアたちとともに外へ飛び出そうとする。慌てたユーラは必死で言葉をまくし立てる。
「そんな!みんなを置いて一人で逃げるなんて出来ないよ!」
「それじゃあ言ってやろうかい?足手まといだって!」
 眼光鋭くシャイアはユーラを睨み付ける。反論も何もかもすべて許さないとその瞳は語っていた。
 ユーラは、自身の力のなさに、泣きそうになるのをぐっと堪えて、小さく頷いた。言われるまでもなく、足手まといなのは解っていた。
「それでは行きなさい!」
 ベイルがユーラの背中を押した。飛び過ぎていた魔物が、悠然と旋回し、こちらに戻ってこようとしている。
 覚悟を決めて、布をしっかり握り締めたユーラは、森に向けて駆け出した。それと同時に、シャイアが魔物に向かって飛び出し、注意を引くため気合の声を上げた。
「おらー!こっちだ!デカブツ!」
「・・・・・・もはや女捨ててるねぇ」
 場違いな呟きをもらし、術のための集中に入るナーヴァ。
 ベイルは、携帯鞄からいくつかの薬草を取り出し、小皿に載せると、
「ナーヴァ、これを燃やしてください。魔物が嫌う匂いが出ます」
 と言いながら、空いてる手は別の薬草をまさぐっていた。
 みんな、闘うために一瞬たりとも無駄にしようとしない。何もできることがないならせめて、みんなの邪魔にならないよう、一生懸命走って逃げよう。
 ユーラのそんな決心はしかし、シャイアたちを無視した魔物によって砕かれることになる。
 魔物は、シャイアたちには目もくれず、ユーラの握る布を目指し、掠めて飛び抜けていった。魔物の起こした風に煽られ、ユーラは転倒した。そのはずみで布を手放してしまい、風にさらわれ、飛んでいってしまった。
 再び旋回した魔物は、あらわになったユーラ目指して、今度は鋭く光る鉤爪を向けながら飛来する!
「ユーラ!」
 シャイアとベイルが駆け寄ってくる!
 ナーヴァが目くらましの術に集中する!
 しかし、間に合わない!
 恐怖のあまり、声も出せずにただただ大きな鉤爪を見つめるユーラ。
(わたし・・・・やられる・・・・?)
 そう、半ば以上覚悟したとき、それは起こった。
 今まさに、捕らわれそうになったユーラの額から、赤い閃光がほとばしった!光は魔物を包み込むと、その身を一気に燃え上がらせた。
「ギョアアアアアアァァ!!!」
 突然のことに、鉤爪を引っ込め、ユーラを飛び越しながら、草原に落ちていく魔物。
「ギャオアァァァ!!」
 猛威を奮う炎に舐められ、魔物は苦しげに地をのた打ち回る。その様を、信じられない面持ちで見つめていたベイルは、あることに気がついた。
「炎が・・・・草原に燃え移っていない・・・・?」
 そのとおり、燃えているのは魔物だけで、その周囲の草花は焦げる事すらない。
「そ、そうだ、ユーラ!」
 ベイルの声に、硬直の呪縛から解放されたシャイアが、ユーラに駆け寄る。ユーラは、恐怖のためなのか、意識を失い、横たわっていたが、怪我をしている様子はない。
「ベイル!いったい何が起きたんだ!?」
 術に集中するため、目を閉じていたナーヴァには、赤い閃光が見えなかった。たとえ、見えていたとしても、何が起こったのかは、理解できなかったろう。ベイルとて、聞かれても答えられない。
「それよりも、今のうちに森の中へ!この騒ぎでは、新手が来るかもしれません!」
 ベイルの指示に頷き、シャイアはユーラを抱え上げると、森に向かって走り出した。ナーヴァもそれに続く。
 ベイルは最後に、ちらりと魔物を一瞥し、森へと駆け出した。
 魔物はもはや、声を上げることすらできずにいた。生命力とともに、荒れ狂う炎も勢いを失いつつあった。
「ユーラの様子はどうです?」
 森の中に入り込み、周囲を警戒しながらシャイアはユーラを降ろす。三人はそっと、ユーラの顔を覗き込んだ。
 彼女の額に埋め込まれた赤い石が、ゆっくりと明滅していた。
「・・・・・・・・・・・」
 三人は、何も言えず、ただただユーラを見つめていた――――。

Copyright © なすかの世界. all rights reserved.

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。